女子フィギュアスケートで3度の全日本選手権表彰台の経験を持つ中野友加里さん(35)は今年、A級審判員の資格を取得した。「やっと今年、死ぬ思いで取ることができました」。

フィギュアスケートの審判員資格はT級、B級、A級、N級、NR級と5段階あり、A級は東/西日本選手権でジャッジを務めることができる。2010年に現役を引退し、その3年後から審判の経験を積んで、ようやく目標の1歩手前までたどり着いた。「目指すは全日本選手権でのジャッジです。私は生真面目すぎてコーチには向いていない。N級を取って全日本で審判を務めるのが目標です」と打ち明けた。

指導者とはまた違う形でフィギュアスケートに携わる中野さんは、6月26日に行われる「アスリートが語る『食』『カラダ』オンラインセミナー」に出演する。世界で3人目となるトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)に成功した陰にあった過酷なダイエットへの挑戦や、その際に母が施してくれたサポートなど、食とカラダにまつわる知られざるエピソードを、セミナーに先立って明かしてくれた。

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「私が食事を意識し始めたのは中学3年生、15歳のころでした。一番の理由は身長が(155センチで)止まったことです。身長が止まったことで体が横に行き、体重が増えた。体重が増えるとジャンプは跳べなくなる。だから、ダイエットを始めました」

ジャンプが跳べなくなる要因は2つあるとされる。1つは身長が伸びて体重が増えた分、タイミングがそれまでと異なってしまうこと。もう1つは、女性らしい体つきになることで回転軸の取り方が変わり、跳び上がるタイミングがズレてしまうこと。女子選手の誰もが突き当たる壁だ。

「現役時代はとにかくやせていなきゃいけないんだと思っていました。クラシックバレエでも、バレリーナは常に細くてきゃしゃな体形が求められる。私も、細ければ細いほどジャンプを跳べると思っていて、常に『やせなきゃ、やせなきゃ』と思っていました」

中野さんが国際大会で初めてトリプルアクセルに成功したのは2002年10月のGPスケートアメリカだった。実は練習では既に跳べていた。初めて着氷できたのは、00年3月に14歳で初出場した世界ジュニア選手権の公式練習。本番での成功までそこから2年半もかかったのは、自らの体との闘いがいかに苦しかったかを物語る。

「根本的に改善しなければいけないのが食生活でした。母がグラムを量り、油を一切使わず、食事もお弁当も作って管理してくれました。今みたいにネットで知識を得られなかったので、いろいろな本を買って計算して作ってくれました。基本的に夜までスケート場にいたので、朝は家で食事、昼と夜は学校とリンクでお弁当を食べていました」

体脂肪など体組成を測る機械も身近にない時代。

「体重測定しかないので、体重計に毎日朝晩2回乗りました。イヤでした。でも、久しぶりに乗って増えた体重を見る方が怖かったので、毎日欠かせない。それが自分の体形のバランスを取る1つのバロメーターでした。体重計に乗る癖は今でもずっと続いています」

いろいろなダイエットを試したという中野さんは、周囲で減量に苦しむ選手を数多く見てきた。中野さん自身、ご飯を食べることが怖くなったこともある。

「それでも、私は心が弱いので欲求が抑えられずに食べていました。幸いというか、残念ながらというか(笑い)。ただ、本当に紙一重だと思います。少し間違えると摂食障害になってしまう。だから、私はご褒美を作りました。試合が終わったらこれを食べようと。

これは多分、私生活でも同じだと思います。練習ばかりに根を詰めても何のプラスにもならない。スケートの話ですが、外の世界を見ていろいろ吸収することも、表現者として、あるいは女性としての魅力を磨く1つかなと」

大学進学後に師事した佐藤信夫コーチの指摘も大きかった。

「『やせすぎても、女性としての魅力がなくなるよ』と。衣装を着たときに体のラインが出ますから、女性的な魅力がないと表現面で点数は伸びませんし、何よりフリー4分間を最後まで滑りきる体力もなくなってしまうと言われました。ただ単にやせればいいわけではないんだと思ったのが、ダイエットを始めて5年過ぎたころですかね」

スケートをやめたいと思ったことは何度もあった。やめるまでずっとサポートしてくれた母とは、いつもケンカばかりしていた。

「とにかく本音をぶつけていました。母は分からないけど、私はストレス発散になっていたかもしれない。本音を言えるところがあって良かったです」

自らも2児の母親になったからこそ今、当時のありがたみとすごさを感じる。

「子供が生まれて、ようやく分かりました。その大変さが。送り迎えをするだけでも大変。ずっと付き添うのはもっと大変。母は私が6歳から本格的にスケートを始めて、24歳で辞めるまで、ほぼ毎日リンクに付き添って、先生の代わりに見てくれる時間もありました。私もこの先、子供とケンカすると思いますが、ケンカしてくれる相手がいるだけうれしいなと思った方がいいですね」

 

■セミナーのお知らせ

【中野友加里さんが登場する、第1回「アスリートが語る『食』『カラダ』オンラインセミナー」】

6月26日(土)午後3時半から開催します。スポーツアンカーとして活躍中の元ラクロスのオーストラリア代表・山田幸代さんが司会を務め、第1回ゲストの中野さんと対談形式で行います。トリプルアクセルに挑み続けた理由や、挑戦したさまざまなダイエット法、母への感謝や最近のフィギュアスケートの楽しみ方など、フィギュアスケートファンはもちろん、「食」「カラダ」に悩みを持つ選手やジュニアアスリートの保護者、指導者も楽しめる内容です。幼少期の中野さんの姿も見られます。参加費500円。

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