年末の全日本選手権、そして22年北京オリンピック(五輪)につながるブロック大会が開幕し、山本草太(21=中京大)が81・71点で首位発進した。

日本スケート連盟の強化選手Aとして迎える今季初戦。冒頭の4回転サルコーからトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)、3回転フリップ-3回転トーループの2連続ジャンプを全て成功させ「普段の練習が安定していることが、試合でも出せたのかな」と納得の笑顔を見せた。

言葉通り、今季はグランプリ東海クラブに移籍して練習環境が整った。昨年末の全日本後、前コーチから離れ、半年以上も拠点が決まらない日々を過ごした。1人で滑るしかない。「どこに移籍しようか半年以上…なかなか決まらなくて。もう自分でも分からなくなって、いろいろな選手や関係者にも相談した中、最後は母が『グランプリ東海さん、どう?』と。それが7月でした。イメージはなかなか沸かなかったんですけど、客観的に見てくださる方々の意見を聞いて、移籍を決めました」。伊藤みどりさん、浅田真央さん、現役選手では宇野昌磨らを育てた山田満知子コーチをはじめ、樋口美穂子コーチ、本郷裕子コーチに師事することを決めた。

昨季は休学して大阪へ。思い通りにいかない状況も経験し、環境を一新した。中学1年から学ぶ名古屋にベースを戻すと、移動の負担なども減り「楽になったというか、気持ち的に、やっと落ち着いた。中京大さんでは、いつでも練習させてもらえますし。グランプリ東海さんでは満知子先生や美穂子先生、本郷先生と一緒に練習していく中で、心技体をそろえていただける。それが魅力かなと。本当に良かった」と感謝し、ビートルズの名曲「イエスタデイ」を舞った。

「初戦で緊張するのかなと思ったんですが、ほど良い緊張感と、とてもリラックスした気持ちで臨めました。普段の練習のおかげで気持ち良く滑れた」。ノーミス発進に、演技後のリンクサイドでは山田コーチと肘タッチ。樋口コーチとはグータッチで喜びを分かち合った。「『本当はハグしたいんだけど、コロナ禍だから今日は肘で』と言っていただいて」。樋口コーチからは、この新SPを授かり「久々に先生からいただいた曲で滑る。美穂子先生が伝えてくれた思いと合致し、自分の思いも込めて一緒に滑れる曲。美穂子先生に振り付けしていただけるなんて。初タッグなのに、僕の魅力であったり、練習を見てたのかなって思うくらい、僕の得意な技を演技に入れてくれたり」。山本が歩んできた苦難の道と重ね合わせた-。そう説明されており、体も心も、迷いなく受け入れた。「世界ジュニアの出発当日に骨折したこととか、知ってくださっていて。『そういう人生を込めた曲だよ』と言ってくださった」。早くも移籍の好影響を実感している。

10月2日には「ジャパン・オープン」(さいたまスーパーアリーナ)出場を控えており、この大会は免除されていたが「ジャパン・オープンはフリーだけ。SPを披露する場が(10月末に出場予定のグランプリシリーズ第2戦)スケートカナダまでないので。先生たちと相談して出ると決めました」という今大会。翌25日のフリーでは「これからも僕はいるよ」を演じる。

4年前は右足首の度重なる骨折と手術で、平昌五輪どころか、この中部選手権で1回転ジャンプからの再出発を余儀なくされた。「当時に比べれば、トップ(の状態)に戻っただけで幸せ。初戦を終えてみて『点数が伸び切らなかったね』『フリーではステップやコンポーネンツを変えていこうね』と先生と話し合ったので、ステップも、スピンも、もちろんジャンプの質も上げていきたい。今日は感触をつかめて良かったです」。

まずは元気な姿を見せたことが最高の滑り出しだ。「体と足が最後までもってくれて、全日本が終わるまで滑り切れたら、僕は満足するんじゃないかなと思います」。夢の五輪へ、今から完全燃焼の予感が漂う好発進となった。【木下淳】