フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ第5戦NHK杯(11月18~20日、札幌・真駒内セキスイハイムアイスアリーナ)に出場する選手の合同記者会見が9日、都内ホテルで行われた。

初出場の渡辺倫果(20=法大)は夢見心地だった。小学生の時に1度、この舞台で滑ったことがある。全日本ノービス選手権Bで優勝した13年に招待され、エキシビションに出演していた。

「9年前に呼んでいただいて以来で楽しみです。GPシリーズ自体も、ジュニア時代を含めて初めて。私でいいのかなと思うところはあるんですけど、9年前に外から見ていた景色を、実際に立って見られることを誇りに、ベストが出せるように頑張っていきたいなと思っています」

期待の代役としてチャンスをつかんだ。今月5日、当初NHK杯にエントリーしていた北京オリンピック(五輪)団体銅メダルの樋口新葉(21=明大/ノエビア)が今季すべての競技会を欠場すると発表。昨季の全日本選手権で6位と躍進していた渡辺に白羽の矢が立った。

女子のブレーク候補筆頭だ。9月の国際スケート連盟(ISU)公認チャレンジャーシリーズ(CS)ロンバルディア杯で初優勝。日本女子で歴代7位(18-19年シーズンのルール改正以降)の合計213・14点をマークした。状態が違うため単純比較はできないものの、世界女王の坂本花織(22)を上回っての頂点だった。NHK杯でも、自信を持って上位をうかがっていい。

マイクを手に何度も繰り返した「9年前のNHK杯」は、東京・代々木第1体育館が会場だった。この会見にリモートで同席していたアイスダンサーの高橋大輔が(36)が、当時は男子シングルで優勝。しかも今季のショートプログラム(SP)が、かつて高橋も演じた「ロクサーヌのタンゴ」という縁もあった。

「以前、少しだけ高橋選手に教えていただいたことがあるんです。『自分の世界観を大切にするように』って。もちろん高橋選手のような世界観は表現できないんですけど、自分なりに演じたい。高橋選手のステップシークエンスが本当に大好きで、あれほどのステップは踏めなくとも、格好良く踊っていれば高橋選手みたいになれるんじゃないか、って小さいころに憧れていました。その方と同じ大会に出られることはうれしいことですし、誇りに思います」

舞い込んだ切符を、より良い道へつなげる。

「NHK杯は夢の舞台。先ほども言いましたが、ジュニア時代は大きな大会に派遣されたことがなくて難しかったんですが、シニアになって、去年の全日本の成績を踏まえて、大きな大会のチャンスをいただけるようになった。このNHK杯を機に、別の大きな大会にも出られるように頑張りたいです」

飛躍の要因となっているのはトリプルアクセル(3回転半ジャンプ=3A)の習得。SPで1本、フリーで2本を投入する予定だ。

「NHK杯で何位を目指すとか、まだ私には分からないんですけど、昨季からのスケーティングの伸びだったり、重点的にやっている部分を大会までにもっと伸ばせれば。3A3本は、もちろん。ベストを出せればと思っています」

世界王者の宇野昌磨(24)や坂本ら日本のトップ勢が登壇したステージでは後方の席だったが、本番ではスポットライトを集めるべく、残りの期間でさらに進化してみせる。【木下淳】