【ミシソーガ=阿部健吾】新ヒロイン候補が誕生した。ショートプログラム(SP)6位の渡辺倫果(20=法大)がフリーで134・32点の1位、合計197・59点で、日本勢2人目のGPシリーズ初出場初優勝を飾った。今季序盤で台頭した勢いで、代替出場のチャンスをものにした。ペアでは三浦璃来、木原龍一組(木下グループ)が日本勢GP初優勝、男子では宇野昌磨(トヨタ自動車)が逆転勝ちした。GP大会で日本勢が3種目を制するのは史上初となった。

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「マジか!!」。渡辺は思わず声が出た。モニター越しに最終滑走者の得点を確認した。「RINKA」の名前が一番上にある。表彰台が決まった時点で「よっしゃー!」とガッツポーズした。それが、まさかの優勝。あんぐりした。

その約30分前。最終グループの1番滑走で会場を沸かせた。冒頭のトリプルアクセル(3回転半)を「意地で降りた」と決める。ドラマ「仁」をテーマに和服調の衣装で軽やかに舞った。最後の3回転ルッツこそ減点されたが「見た目はノーミスできたのでよかった」。3回転半が加点1・26点と知ると「よっしゃ!」と声も上げていた。優勝の想像は全くなかった。

この日から1カ月半前、「奇跡的なこと」が始まった。9月のロンバルディア杯で世界王者の坂本を抑えて優勝。GPシリーズ補欠となり、1週間前に急きょ今大会の出場が決まった。開催地はカナダ。「エモい」と話す第2の故郷だ。

5年前、中3で滑りを磨くためカナダに渡った。ホームステイして高校生活を送ったが、20年にコロナ禍で帰国を余儀なくされ、再入国は渡航したバンクーバー空港で拒否された。

日本を拠点にするしかなかった。木下クの浜田コーチに1年間師事し、法大進学とともに、現在の中庭コーチの門下生となった。

常々伝えられたのは宇野昌磨の言葉。「何が起きても自分のプラスにできる」。そんな思考法だった。失敗をどう捉え、自分を前に進ませるか。意識改革が「自信がなかった自分を変えてくれた」。世界で戦う武器、3回転半も「失敗しなさい」という師の声掛けで怖さなく挑めた。「すべて必要だった。どのピースが欠けても私はここにいない」。思うようにいかなかった物事も含め、前向きに考えられるようになった。

この日、カナダで最高の結果を手にした。「(ロンバルディア杯の)優勝も現実をまだ受け止められてませんが、また受け止められないものが…」。ただ、同時に誓う。「いい方向に向かっているのを怖がらずにどんどん突き進んでいきたい」。まずは次戦NHK杯でGPファイナル行きを狙う。まだまだ、「マジか!」と言える結果を現実にしてみせる。

◆渡辺倫果(わたなべ・りんか)2002年(平14)7月19日、千葉県生まれ。3歳で競技を始め、13年全日本ノービス選手権ノービスB(6月30日時点で満9~10歳)優勝。東京・文華女子中3年時に青森山田中へ転校。カナダ・バンクーバーを拠点とする。コロナ禍の20年に帰国し、一時は京都などで活動。21年に青森山田高から法大に入学。千葉・船橋市のMFアカデミーに拠点を移す。21年全日本選手権6位。前年の27位から大きく躍進。趣味はアニメ観賞、フィギュア集め、ダイオウグソクムシのグッズ集め。153センチ。