池江選手は、予選が終わった段階で優勝確実だと感じていた。
飛び込んで最初の15メートルから浮き上がった直後の息継ぎを、予選と決勝で使い分けていた。予選は2分の1呼吸(ストローク2回に息継ぎ1回)。大きく泳いでいた。決勝は4分の1呼吸。スピードを出す泳ぎをしてその後の泳速につなげた。予選からギアチェンジできる余力があった。使い分けられるのは、技術的にも精神的にも余裕があったからだ。
彼女の一番いいところは力の抜き具合。力んで泳いでスピードを出すことは誰でもできる。引退した私でも25メートルのスピードを出すことは可能だ。ただ目標のスピードがあるとして、ロスなく必要とされる力を出して泳ぐことは難しい。過緊張や効率の悪い泳ぎになると、本来は「10」の力でいいところで「12」の力を使ってしまう。それは日本選手権の決勝や代表を争うレベルの選手でも差がある。
池江選手は、いい意味で力感がなく、泳ぎに余白がある。水の力で進むことを信じて、焦ってストローク数が増えたりもせず、力みなく泳ぎ切れる。
「10」のスピードに「10」の力といったが、トップスイマーになると、その単位は0秒01刻みになる。実際の数値は「10」ではなくて、予選の55秒05や決勝の54秒17というタイムになる。それぐらい緻密な単位で、効率的な力の使い方を考えている。その調節能力が池江選手は高い。
今大会は今持っている100%の力を出せている。レースでは練習では得られないものが得られる。福岡、パリでいいはずみになるだろう。(16年リオデジャネイロ五輪金メダリスト)


