アニメから飛び出してきたみたい-。そんな評判で話題のスケーターがいる。昨年末の全日本選手権2位の島田高志郎(21=木下グループ)。先月初演を迎えたアイスショー「ワンピース・オン・アイス~エピソード・オブ・アラバスタ~」でサンジ役を演じ、新境地を見せている。大人気テレビアニメ「ワンピース」シリーズ史上初となるショー。名古屋公演(9月2~3日、ドルフィンズアリーナ)を前に、かける思いを聞いた。
-反響をどう受け止めていますか。
大好きな作品で、大好きなキャラクターを演じるからこそ、演じる怖さが最初はありました。横浜公演が終わった後に、良い声をたくさんいただけたことに、心底ホッとしているし、すごくうれしかったです。
-怖さというのは。
原作のファンの方々、アニメのファンの方々は、1キャラ、1キャラへの捉え方が全員違うと思っています。自分が解釈した、そのキャラクターの良さや、こう表現したいなと思った解釈が全て一致しているとは限らないので、その誤差がちょっとでも少なくなるように頑張ってはきました。
-島田選手の解釈はどのように作っていきましたか。
前半の海と、後半の海があるので、前半の海ではかっこいい、頼りになる、でも女性には甘いところが、すごくフューチャーされていたと思います。後半の海で紳士の中にある優しさの根源が作中では描かれていたので、その優しさをどこまで出していいかなとすごく考えました。普段の自分からは想像もつかないほどキザな男を演じる部分もあったので、それがすごく難しく。でも、スケートの動きとはよく一致する技、陸で表現できないことが氷上でできることも、サンジはより多くあったのかな。
-優しさの部分のしぐさとかで取り入れたこと、工夫などはありましたか。
優しさの部分ではオープニングで登場したりする場面で、フィギュアスケートの美しさに近いというか、カチッとした決めポーズよりはちょっと滑らかな動きを出すとか、そういったところは意識しながらやりました。
-ポケットに入れながら滑るのは難しくはないですか。
そうですね、もう癖ついちゃうぐらいポケットにずっと手を入れていたので大丈夫です(笑い)。ところどころでは手を出したりもしますし。ポケット自体は難しくはないんですけど、髪の毛ですね。見えないんですよね。多分、原作のサンジも苦労したんじゃないかと。左からの攻撃に絶対弱いでしょって思いながら(笑い)。
-ほんとに見えないんですね。
うっすら光がぼやけるくらいですね。片目で滑ってます。たまに両目で見えた時に「まずい!」って思うぐらいですね。ちょっと難しかったですけど、衣装的な面では跳びやすい、動きやすいし、その分ちょっとジャンプを入れてとか。振り付けの宮本(賢二)先生や演出の金谷かほり先生とご相談して決めていきました。
-ここまでの役作りは初めてですか。
キャラクターを演じる、その1つの役を演じさせてもらうのは、本当に初めての経験で。スケートでも音楽の解釈だったとか、ストーリーの解釈ですね、どういうキャラクターを演じるのかは考えてはきてはいたんですけど、結構アバウトで。全体像を見ながらスケートのプログラムは滑っているので。キャラクターに寄せて、キャラクターになりきることは、あまり今までやってこなかったですね。
-中学生の時にプログラムの題材になった小説を読んでいたり、解釈に関しては、すごくアプローチをされてきましたよね。
その下積みというか、土台はあったのかなとは思うんですけど。大好きな作品で、大好きなキャラクターだったので、より熱も多くありました。本当にもう、公開リハーサルの時にみんなで話していたんですけど、震えてたんですよ。「緊張する」って。それぐらい頑張って役に没頭して、役作りを徹底していましたし、これが受け入れられなかったらどうしようと1人1人が思っていたので、すごい雰囲気でした。
-タバコを吸ったりするしぐさなども、プログラムではないですよね。
そうですね、タバコはより遠いところにある存在なので。最初「これ、どうやってやればいいですか」から始まったんですけど。サンジはちょっと特殊な吸い方をするよな、みたいなところから。ちょっと顔を覆うような。ちょっとずつ、タバコの吸い方ってよりも、サンジはどういう形を取ってるかから始まっていったので。最初はつける動きもわかんないので。それも、賢二先生だったりとか他のスケーターとか、「つける仕草した方がよくない?」ってことで、そのしぐさも取り入れたり。
-細部へのこだわりが、皆さん、すごいですね。
そこまでやらないと、「あの動きないなあ」とか「この動き楽しみだったのにな」ってものが出てしまうと思うので。本当に役になりきるっていうことを意識しました。
-2次元から出てきたようだという評判もありますね。
衣装さんもすごくこだわってくださってて。メイクさんも、原作に忠実にすごく徹底してくださってますね。スケーター仲間、応援してくださってる方々の声というものが励みになったので。初回公演からちょっとずつグレードアップしていって。公演を重ねるにつれ、より細部にこだわるようになっていきましたし、ポジティブな声援が、よりみんなを盛り上げてくれているなって思います。
-ちなみにサンジ役にちなんで・・という事で、得意料理はなんですか。
いや、昔はメンチカツって答えてたんです。最近もう、めんどくさくなっちゃって(笑い)。時間かかるなって。スイスでいろいろ作ってたんですよ、パン粉などは日本から持っていって。ギョーザも作ったんですけど。いつも簡単なものを求めちゃうんで、サンジとはちょっと違いますね(笑い)。でも、最近ハマってるのは、もうずっと鶏ハムですね。低温でじっくりやっていくので。ジップロックに入れて、オリーブオイルとニンニクと塩コショウと砂糖とコンソメなど。気分によって、鶏がらのスープとか。味を気分でちょっと変えつつ、全部バーってぶち込んで、最初5分中火でやって、あとは30分間火を消して、そのまま置いておく。楽な方向を模索してしまっているので、得意料理とは言えませんが…。
-アスリートの食事ですね。
そうですね、体を作る料理っていうのを意識はしてる感じですね。得意料理、増やしておきます(笑い)。
-足の長さも話題になりましたね。股下を測った事はありますか。
あると思います。いつも気にしてないですけど、パンツの裾を直した時に、確か82、3センチだったかな。いま身長は176センチですね。
-上体の動きがポケットに入れているからこそ、足の動きがこんなにも強調されるんだなとも感じます。
そうですね。プログラムでは上半身も意識しないといけないので。でも、言葉で演じないとダメなので、ポケットに手を突っ込んでる時でも、客席の上からのお客さんが見えるように、そういった演技指導をしていただいたので。あとは首ですね。めちゃくちゃ首を意識してます。元々ちょっと姿勢が悪かったりとか、普段は意識して姿勢を正したんですけど、じゃあ今回はそこを前面に出していこうと(笑い)。体系的にはちょっと柄悪く見せるのはこうじゃないとダメって。
<アイスショーの未来、夢の果て>
-反響の中で、ワンピースが好きで、ショーを見に来ましたっていう人が、島田選手のことを発見して興味を持たれるというようなケースもありました。
最初に驚かれるのが、スケートのスピード感だったり、ジャンプできるんだとか、回れるんだというところだと思います。それをきっかけに、スケート界に興味を持ってくださっているってことが、何よりもうれしいです。それを目標に自分は現役を続けているので。例えば、見たことない人がぱっと見た時に、「いいな」と思える演技を僕は目指して、ずっとスケート選手を続けているので。もう、これ以上ない喜びでした。スケート面白いかも、みたいな声を聞くことが1番うれしかったです。フィギュアスケートの幅、可能性ですね、今回、「ワンピース・オン・アイス」の全部を通して、伝わった方もいたと思います。もちろん、「ワンピース」ファンの方々が、「ワンピース」をこう表現してくれるんだと喜びを持ってくれることが1番大事なんですけど、その先にフィギュアスケートにもちょっと関心を持っていただけるということが、それこそ、ルフィでいうなら「夢の果て」じゃないですけど。ゴールの先にあることが、自分の中ではスケートを見てもらえるような、今後も見てもらえるような役を演じることだったので。ほんとに、その声が1番うれしいです。
-アイスショーの幅としては、「アート・オン・アイス」など欧米のアイスショーと日本のショー文化の違いもありますね。島田選手は両方経験されているかなと思います。
僕が出させていた「アイスレジェンド」や、「アート・オン・アイス」も見させていただいた側なんですけど。物語を、役を1人1人徹底して、最後まで演じるアイスショーが、最近少なくなってきているのではないかなと思っています。それが、僕はちょっと悲しいと思ってしまっていたので、今回「ワンピース・オン・アイス」という、年齢層的にも誰でも来やすく、世界的に人気の「ワンピース」ですし、それが物語として1つのショーになる、しかもスケートに関係するっていうことで、自分の中ではオファーをいただいた時は、「やった」と思いました。そういったショーにやっぱり憧れがあったので、自分個人の演技にフォーカスするアイスショーももちろん必要だし、大事なものだし、いいものだと思っているんですけど、それこそ「ディズニー・オン・アイス」や、他にもストーリー、世界観を崩さず、そのまま進めていくショーの魅力が、この先のスケートが進むエンターテインメントの方向性だとは思うので。その可能性が今回見いだしたのもすごく大きいんじゃないかなと思います。
やっぱり伝統として長く残っているショーと言われた時に、「ディズニー・オン・アイス」が1番最初に出てくると思いますし、「アート・オン・アイス」も、「今年はどういう演目でやるのかな」など、演目自体は変わり続けますが、ストーリー性を大事にする。個人にスポットライトを当てるのではなく、全体をどう見せるか。僕は演出家ではないので詳しいことは言えないですけど、パッとショーを見た時に没入できる、ずっと入り込んで見てられるものは貴重なものだと思うので。日本ももっとあっていいんじゃないかなとすごく考えたりはしてました。
-そういう意味でも大きかったですね。自分のやりたい1つの方向性として。
すごく表現することが大好きなので、それを最大限生かせることはなんだろうと考えたときに、そういった道が開かれるのもすごくありがたいですね。
-ゾロ(田中刑事)とのバチバチ感も回を重ねるごとに増している気もしますね。
特にフィナーレのとき、ですね(笑い)ゾロ役の田中刑事くんから提案してもらったんです。「ゾロは方向音痴だから、向こうから出ようと思うんだけど、どう?」みたいな感じで。僕も止まり方などまで見てくださっていたので、もう全力でやってやろうみたいな感じだったので、そこを見ていただいてるのはすごくうれしいですね。
-では名古屋公演はまた新しい事を考えられますか。
動画撮影がOKなので、毎回変えたら喜んでもらえそうですよね。ゾロとサンジだけでなく、ウソップとチョッパーでやってみるとか(笑)。そういうキャスト同志のやりとりもすごく楽しいので。そんなことをたくらんでいたのか、という感じで見てくださったらいいなと思います。楽しみにしていてください!