<柔道:世界選手権>◇28日◇女子63キロ級◇オランダ・ロッテルダム

 【ロッテルダム=佐々木一郎】上野3姉妹の次女が、世界一になった。上野順恵(よしえ、26=三井住友海上)が金メダルを獲得し、五輪と世界選手権を4度制した姉雅恵さん(30)に続いた。決勝では笑顔で相手を抑え込み、5試合すべて1本勝ち。日本女子に3日連続金メダルをもたらした。日本柔道界で、姉妹での世界制覇は史上初だ。

 笑いが止まらなかった。北京五輪銅メダルのベレブールトセ(オランダ)との決勝戦。上野は大外刈りで相手をぶん投げ、そのままけさ固めに入った。勝利を確信、思わず笑みがこぼれた。「抑えこんだ時、笑っちゃった。やっと世界チャンピオンになれたと思いました」と素直に言った。

 見守った日本女子の園田監督は、この“ほほ笑み固め”に「『えっ?』と思いましたけど、自分も笑うわけにいかなかった。我慢しながら『もうちょっとだぞ』と。相手も逃げる気はなかったし」と振り返った。オール1本勝ちで5試合合計431秒。1試合平均1分半もかからなかった。

 「うれしいです、フフフ。試合が楽しくてしょうがなかったです」と上野。不遇の時代を耐えつつ、鍛え上げた大外刈りが、ビシビシ決まった。08年4月選抜体重別で優勝しながら、北京五輪代表の座は谷本に奪われた。豪快に技を決めるライバルほどは、評価されなかった。今年も谷本を破って世界切符をつかみ、技が切れることも証明した。

 父法美さんが営む道場で育った3姉妹の次女。姉は3月で一線を退いた。一緒に五輪に行く夢は、もうかなわない。この日、スタンドで観戦した母和香子さんは「妹にとっては、一時的には寂しいかもしれないけど、逆にこれからが自分の出番だと、張り切っていると思います」と思いやった。今は70キロ級の三女巴恵と12年ロンドン五輪に行く夢が、広がっている。

 「やっとチャンスが巡ってきたので、結果を出さなければ、使ってもらえないという、危機感がありました。追われる立場になっても、勝ち続けていきたいです」。この日は姉からもらった深大寺(東京・調布市)のお守りを、カバンにつけて臨んだ。姉が世界舞台から去っても、上野の名前は世界一であり続けた。