これが九州男児の大仕事だ。熊本地震の影響で開催が慎重に検討されたソフトバンク-楽天5回戦(ヤフオクドーム)。ソフトバンク吉村裕基外野手(31)が劇的すぎる2打席連発で6連勝を呼んだ。9回に代打起用され同点3ラン。そのまま出場して延長12回にサヨナラ2ランを放った。9回に4点差を追いついての延長サヨナラ勝ち。野球のパワーを存分に示した。

 吉村が両手を突き上げた。笑顔で待つナインの輪に飛び込む。2打席連発となるサヨナラアーチ。延長12回裏、奇跡の放物線を描いた。

 「僕たちは野球しかできない。悪い時も声援を送ってくれるファンがいる。どれだけ勇気をもらったか。今回は僕たちが…」

 信じれば、道は開ける。逆境でもあきらめない姿勢があった。振り抜いたバットが、野球の持つ力を示した。

 開幕から16打席連続でノーヒットだった。先の見えない中で、3点を追う9回裏2死一、二塁の代打に起用された。自らに言い聞かせたことがあった。

 「打てないぐらいで、どうこう言ってもダメだ。いろんな苦しみを持って、戦っている人がいる。自分がやれることをやる、と心に決めた」

 14日に熊本を震源とした大地震が発生。福岡では前夜に揺れは収まったが、不安は消えなかった。「(地震が)来るかな、来るかな、と思っていた。福岡でさえ、そう。風も雨も強かった。あの状況を見ると、自分の悩みなんか小さい」。瀬戸際の打席では、楽天の守護神松井裕の外角直球に食らいついた。右翼のテラス席へ、起死回生の同点3ラン。これが今季の初安打だった。

 熊本には思い出がある。13年にDeNAから移籍。初めてお立ち台に立ったのが、熊本の藤崎台球場。センター右に決勝3ランを放って、ヒーローになった。今では地震の影響で、スコアボードにひびが入っている。知人の家はガラスが割れて、家の中はぐちゃぐちゃだという。「福岡出身だし、同じ九州。いろんな思いもある。僕の思いは小さいが、重なると大きなものになる」。できる限りを尽くした。

 前日16日は中止された楽天戦。この日は午前7時に球団幹部が集合し、1時間の協議の結果、開催を決定した。九州男児の底力で、チームは連勝を「6」に伸ばした。ヤフオクドームの奇跡が被災地に届いたかどうかは分からない。それでも確かなことが1つある。ナインの思いは苦しむ人々とともにあった。【田口真一郎】

 ▼吉村が9回に代打本塁打、12回にサヨナラ本塁打を放った。同一試合で代打本塁打とサヨナラ本塁打の両方を打ったのは13年多村(DeNA)以来6人目。パ・リーグでは61年木村(南海)97年藤井(オリックス)に次いで3人目だ。代打の1発は9回2死からの同点3ランだった。97年藤井は9回1死から代打同点弾、延長11回にサヨナラ弾を記録したが、土壇場の「9回2死」から代打で同点本塁打を放って、延長で自らサヨナラ本塁打は吉村が初めてになる。