プレーバック日刊スポーツ! 過去の5月27日付紙面を振り返ります。1992年は3面(東京版)で新庄のプロ初本塁打を報じています。

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<阪神2-1大洋>◇1992年5月26日◇甲子園

 また、阪神にニューヒーローが飛び出した。新庄剛志。弱冠20歳の若虎が、今季初スタメンの初打席、しかも初球をたたいて3連勝を呼び込んだ。たったひと振りでプロ初のお立ち台だ。

 緊張のプロ3年目の顔が笑顔になるのに時間はかからなかった。2回だ。大洋先発の有働が「探りにいった」という何でもないカーブ。「積極的にいこう」と決めていた新庄のバットがせん光を放った。プロ1号がゆっくりとした放物線を描いて、レフトスタンド通路に舞い落ちる。「打球の行方が分からなくって……」と言う新庄を、2万8000人の歓喜の声が包む。

 「ファームで練習していた自分の力を全部だそうと思った」。新庄のがい旋をホームで待っていたのはまず山田だった。かける言葉が見つからない。代わりにポンポンとヘルメットに手荒い祝福。そして今度はベンチ前……。並んだナインの最後に亀山がいる。二人手を合わせてハイタッチ。「(カーブを)狙っとったんか。でもよかったな」と亀山の声も詰まった。みんなともにファームで汗を流した同志たちだ。一番遅れてきたのが新庄だった。

 この東北遠征から一軍に上がった新庄だが、2試合とも無情の雨。「早く一軍の舞台でやりたい」。だが、帰りの新幹線で、新庄をカメが励ました。「オレたちは一生懸命やるしかないんや。そしたら結果が出る。なあ、新庄」。

 そもそも強運の連続ではあった。昨年9月10日の対巨人戦、プロ初打席で初ヒット、初打点。その時もまたこの日と同じカーブだった。今年、開幕時には40人枠にも漏れた。それでも4月下旬には、島田兄の故障で40人枠追加登録。そして今回の一軍スタメンもまたオマリーの骨折からだった。「去年の一軍とは違う。こんな大事な時期に上げてもらって。しかもスタメンですから」と言うが、チャンスをものにする運がある。

 急造サードも無難にこなした。チームは今季最多タイの3連勝、貯金も「5」。ニューヒーローの誕生祭に六甲おろしもやまない。 

 <新庄剛志(しんじょうつよし)アラカルト>

 ◆体 1972年(昭47)1月28日生まれ。182センチ、72キロ。右投げ右打ち。握力は右85キロ、左89キロ。遠投120メートルの強肩。89年ドラフト5位で阪神入団。

 ◆球歴 小学校4年から。西日本短大付高ではエース。スカウトの訪問を受け、プロ野球を目指すが、それまでは競輪の選手にあこがれ、最後は実家の造園業を継ぐ気でいた。

 ◆強烈アピール 昨春のキャンプ、第1クールでいきなり頭角。2月3日のマシン打撃で、240スイング中62発をサク越え。「飛ばした方が目をつけられる」と本人。

 ◆コンバート 外野だった新庄は入団した一昨年途中から遊撃にコンバート。「ショートは素人だが、とにかく何をしでかすか分らない魅力がある。意外性があるんだよ。調子が悪くても、どんなに難しい球でも一発があるからね」と石井チーフコーチ(当時二軍監督)。今季ウエスタンでは21日までに6アーチを放っている。