プレーバック日刊スポーツ! 過去の8月28日付紙面を振り返ります。2005年の1面(東京版)は完全試合を逃した西口文也投手でした。

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<西武1-0楽天>◇05年8月27日◇西武ドーム

 こんな不運な男がいるだろうか。西武西口文也投手(32)が、史上16人目の完全試合を惜しくも逃した。楽天戦で9回まで1人の走者も出さず、打者27人で料理。しかし、打線の援護なく0-0のまま延長戦に突入し、10回表、先頭の沖原に右前安打を許した。延長で完全試合を逃したのは史上初めて。西口は今年5月13日の巨人戦(西武ドーム)を含め、過去に2度、9回2死からノーヒットノーランを逃しており、またも惜しいところで大記録を逃した。試合は10回サヨナラ勝ち。西口は1安打完封でトップタイの16勝目を挙げた。

 劇的なサヨナラ勝ちも、うれしいはずの完封勝利も、すべてが色あせてしまった。延長10回裏、サヨナラ勝ちを決め、大はしゃぎのナインの輪の中に、西口は埋もれていた。3度目のチャレンジとなったノーヒットノーランも、9回まで続けた完全試合も、なくなっていた。“ただの”完封勝利に「いやいや、まぁ、チームが勝ったんで。ボクには縁がないんでしょう」。ひょうひょうとした口ぶりはいつもと同じも、少しだけ浮かんだ苦笑いに、大記録を逃した悔しさがにじんでいた。

 逃した魚は大きかった。快挙へ3度目の挑戦は、完全試合ペースで進んだ。2度のノーヒットノーラン挑戦は9回2死から痛打されていただけに「正直、9回ツーアウトを取ったとき、ホームランを打たれるかと思ったんだけどね」と振り返ったが、見事遊ゴロに打ち取った。普通ならこれで堂々の完全試合達成も、スコアは0−0。その裏の味方の得点を待った。

 しかし勝ち越せず、延長のマウンドへ。10回表、先頭の沖原に投げたカウント2−2からの5球目、この試合124球目の130キロのスライダーが、ライト前にはじき返された。「今日は立ち上がりから調子がよくなかった。とにかく変化球を低めに集めることを心掛けたのが、よかったんじゃないかな」。自らを救ってくれていた決め球のスライダーを打たれ、史上初の延長戦での完全試合を逃してしまった。

 援護が1点でもあれば…。しかし、西口に悔いはない。0−0の均衡が続いたが「その緊張感がなければ、あんなピッチングはできていなかったよ。ノーヒットノーランを続けていた試合は勝っていた試合だったし、感覚も違ったね。いつも通り。でも、あの試合(5月巨人戦)はホームランを打たれて1点取られたけど、今日は完封だからね」と、打線を責めることなく大人のコメントを続けた。

 自らの投球哲学が、大記録目前まで迫った好投を支えていた。「点差はあればあるほどいい。点差があれば力を抜いて投げられる。余計な体力も使わないし、狙ったところへ投げれるでしょ」と話す。こだわっているのはあくまで「勝利」だけ。たとえ余裕があっても、派手な奪三振ショーも狙わなければ、完封勝ちにもこだわらない。大記録に縁はないが、細身の体で何年も勝ち星を稼ぎ続けられるのは、この「西口哲学」があるからだ。

 プレーオフ進出をかけるチームにとっても、自分自身にとっても大きな勝利だった。3位オリックスとのゲーム差は2に縮まり、最多勝を争うソフトバンク杉内にも16勝で並んだ。「最多勝より、これでオリックスの背中がチラッと見えてきたでしょ」。3年ぶりの完封勝利。それも10回でたった1安打。一時はオリックスに5ゲーム差をつけられ、プレーオフ進出をあきらめかけたチームも、よみがえらせた。

※記録や表記は当時のもの