<ヤクルト2-4横浜>◇11日◇神宮

 追悼のセーブだ。横浜の山口俊投手(22)がヤクルト9回戦に9回から登板し、無失点に抑えて9セーブ目を挙げた。この日、母校柳ケ浦高野球部員の乗ったバスが横転し、1人が死亡、42人が重軽傷を負った。昨オフに母校グラウンドで練習をした山口は後輩を元気づけるべく、悲しみを乗り越えて剛速球を投げ込んだ。

 9回のマウンドに立った山口は、乱れる気持ちを必死で押さえつけた。母校の野球部で起こった悲劇。くしくもこの日が22歳の誕生日。さまざまな思いが頭の中に渦巻いていた。「浮足立つのがこわかった。集中していこうと」。先頭打者に四球を与え、さらに自らのパスボールで二進させた。それでも後続を最速152キロの速球で必死に抑えた。最後のユウイチを空振り三振に取ると、ホッとした表情で汗をふいた。

 事故のことは午前10時ごろ、実家からの電話で聞いた。「そんな大きなこととは思っていなかった」。テレビのニュースで詳細を知った。事件現場は、高校時代に何度も通った道だ。運転していた副部長も顔見知りだった。信じたくなかった。後輩たちのことは、いつも気に掛けていた。昨年12月、大分に帰省した際には、母校のグラウンドを借りて練習した。卒業して3年が過ぎても、部員たちは身近な存在だった。

 球場に着いても、動揺はおさまらなかった。練習し、試合が進むにつれ、自分の役割を意識し始めた。「投げる姿を見せたい」。チームメートが絶好の機会を用意してくれた。打線は6試合ぶりの2ケタ安打。ここまで未勝利の先発マストニーも力投。そして守護神は、自らの責任を果たした。

 「こういうことでしか元気づけてあげられない。新聞でもなんでも見てもらって、元気を出してもらいたい」。前回登板の巨人戦では抑えに失敗して敗戦投手となった。だがそんなことは母校に対する強い思いの前に、問題にはならなかった。後輩たちには「3年生にとっては最後の夏。亡くなった生徒、けがをした生徒のためにも甲子園を目指して頑張ってほしい」とメッセージを送った。

 特別な日となった。「いろんなことがあって、その力もあった。この9セーブ目は大事にしたい」。自分のピッチングが後輩たちの希望になる、との思いが、山口の心に深く刻み込まれていた。【高宮憲治】

 [2009年7月12日9時41分

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