<ヤクルト4-17阪神>◇5日◇神宮

 阪神マット・マートン外野手(29)が来日1年目から日本球界の歴史を塗り替えた。ヤクルト戦の2回に中前打を放ち、94年オリックス・イチロー(現マリナーズ)に並んでいた210安打のプロ野球記録をあっさりと更新。5、9回にも快音を重ね、記録を213にまで伸ばした。

 3点リードの2回2死満塁。歴史的瞬間は訪れた。カウント0-2。中沢の真ん中高めチェンジアップをお手本通りのセンター返し。鋭いゴロで二遊間を抜き、2点適時打で今季211安打を達成した。「素晴らしい、最高の気持ち。光栄です」。一塁ベース上、両手人さし指を天に突き上げた。花束を渡され、ヘルメットを頭上に掲げた。丁寧にお辞儀を繰り返した。

 07年の悔しさだけは今も忘れない。24歳で迎えた06年にはカブスで144試合に出場し、打率2割9分7厘、13本塁打。左翼レギュラーをつかんだ。しかし同年オフ、メジャー屈指の強打者ソリアーノがナショナルズから移籍。8年で約163億円の超大型契約を結び、運命は狂い始めた。

 「07年開幕戦はソリアーノが中堅、僕が左翼で先発した。でも、ある時ソリアーノが筋肉系の故障でレフトしか守れなくなってね。それでもう僕は終わりさ」。出番は激減した。自分ではどうしようもなかった。

 03年に大学からドラフト1巡目でレッドソックスに入団。歩んできたエリートコースで初めての行き止まり。だから今、毎日グラウンドに立てることに心から感謝する。「出たり出なかったりという選手の気持ちは今もすごく分かるんだ」。試合に出られる喜びがプレーに乗り移っている。

 「最初、日本に来ると決めた時、日本が分からない怖さがあった。でも、自分にとって素晴らしい経験になっている」。213本のヒットを積み上げ、残り2試合。マートンの旅はどこまで続くのか、まだ分からない。【佐井陽介】

 [2010年10月6日9時30分

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