中日荒木雅博内野手(33)が球史に名を刻んだ。初回、四球で出塁すると初対戦の左腕ゴンザレスから完璧なスタート。捕手の送球を待たず、二塁へ到達した。高木守道、中利夫に次ぐ球団史上3人目、プロ野球27人目の通算300盗塁。「同点とか、競った場面でやりたいと思っていましたから…。よかった」。盗塁は勝利のため。ポリシーを貫いてきた荒木は試合後、記録の味をかみしめた。

 「自分を過大評価するやつが多いこの世界で、自分を過小評価する珍しいやつ」。落合監督をも驚かせる荒木の人間性。ただ、だからこそトップ選手となった今でも自分を追い込める。盗塁の成否を決める10メートル走のタイム。荒木は34歳になる今年も1・1秒とチーム内最高レベルを維持している。予備動作なしで瞬時にトップギアに到達できる走塁は「俊足」というより「職人芸」という表現がふさわしい。

 95年のドラフト、荒木はPL学園・福留、東海大相模・原の「外れ外れ1位」で指名を受けた。当時の星野監督に契約金の一部返金を申し出たという。「実力的に3位分のお金しかいただけませんよ。それが、ここまでやれるなんて信じられないです」。父・義博さんは今、そう言って笑う。

 落合監督は「何もありません。1000個走った人だっているんだよ。3分の1もいっていないのに大騒ぎするな」と話した。荒木は「どうやればチームが勝てるかを考えてここまできた。これからもずっとそうやっていきます」と話した。大それた数字など頭にはない。どこまでも控えめな盗塁職人はこれからも自分らしく走り続ける。【鈴木忠平】