<ヤクルト8-5阪神>◇28日◇神宮

 そのまま勝っていれば最高に格好よかったんだけど。阪神4番新井貴浩内野手(34)の逆転3ラン。プロ通算250号を、ここしかない場面で左翼に打ち込んだ。まてよ、3回の逆転3ラン、6回の再逆転ってどっかで見たような展開…ゴチャゴチャ言わず、神宮連敗、誰か止めてよ~。

 花束を手に歓声に応えていたあの瞬間がウソのように、試合後の新井は表情が硬かった。帰り際、神宮のファンから「明日も頼むぞ」の声が飛ぶと小さくうなずいた。通算250号の記念弾は寂しい空砲になった。

 「やっぱり勝ちたい。今はそれだけしか言えないです。点を取られたあとにすぐ取り返したのはよかったけど…勝ちたかった」

 3回無死一、二塁。七条の甘く入ってきたスライダーを完璧に打ち返した。0-2から一気にひっくり返す14号3ラン。250本目の本塁打はその数字にふさわしい大きな弧を描き、左翼席を埋めた虎党の渦に飲み込まれていった。9日に同じ神宮で王手をかけて以来、13試合目で節目の通算250号に到達した。

 その時点では文句なしに価値の高い1発だった。直前の2回2死満塁で藤井彰のまさかの落球で2点を失った。負けられない一戦で序盤から最悪のムードに支配されたが、4番のひと振りで息を吹き返した。

 それでも勝てなかった。だが新井はあきらめていない。あきらめるわけにいかない。東日本大震災があった今年は特別なシーズンだ。プロ野球選手会会長として、被災地を勇気づけるために全力プレーを胸に誓っているのだから。

 5月下旬、被災地の宮城・岩沼市を訪問した。地元の小中学校に通う野球少年たちに、こう伝えた。

 「空振りするのは恥ずかしくない。一生懸命やらないことが恥ずかしい。三振してもいいから思い切り振ることが大事だから」

 それまで遠隔地で胸を痛めるだけだった新井自身も当地で野球選手としてやるべきことを認識した。

 今季は不振のときにボール球に手を出すことが目立ち、コーチからも指摘を受けた。その反動で、持ち前の積極性を失いかけた時期もあったが、今は原点に立ち返って積極性を前面に出して戦っている。この日の一時逆転3ランは、新井らしく、子どもたちに教えたような、迷いのないフルスイングだった。

 「次の本塁打が、いい本塁打になるように準備します」。どんなに道が険しくても、可能性がある限り、一心不乱にチャレンジを繰り返していく。【柏原誠】