<巨人8-3ヤクルト>◇12日◇東京ドーム

 長いトンネルを抜けるとそこは…打線爆発だった。本拠地に戻った巨人は、1回の無得点で球団ワースト記録を更新する32イニング連続無得点となった。だが2回、ジョン・ボウカー外野手(29)が4号2ランを放ちゼロ行進を止めた。6回は阿部慎之助捕手(34)の同点適時打、ボウカーの5号3ラン、ロペス内野手(29)の4号ソロと、5連打で一挙5点を奪い、ヤクルトを突き放した。終わってみれば先発野手全員の13安打8得点で完勝。巨人打線に心配は無用だった。

 歴史的な貧打状態は2イニング目で終わりを告げた。初回無得点で32イニング連続無得点となり、球団ワースト記録を更新した。出口の見えないゼロ地獄。球場がざわついたが、それもほんのつかの間だった。

 切望していた33イニングぶりの得点へと導いたのはボウカーだった。無死一塁。「難しいボールだったけど、うまく反応できた」というロマンの内角やや高めの直球を完璧に振り切った。右中間スタンドへ、昨季を早くも上回る4号2ラン。「(ワースト記録に)焦りはなかった。チームには素晴らしい選手がそろっていて、いずれは抜け出せるからね」と力を信じていた。

 助っ人はベンチ前で、最後に阿部とヒジを合わせて喜んだ。前日11日の阪神戦。2打席連続三振に終わり、代打を告げられた。ここ4試合は14打数2安打。開幕直後の猛打ぶりが一転、徹底したアウトロー攻めに低調気味だった。ベンチで代打待機していた阿部に悩みを打ち明けた。

 ボウカー

 どうやってボールを待っているんだ?

 阿部

 おれは甘めの内角に意識を置いて外角に対応するようにしている。じゃあ、ジョン、明日、東京ドームで一緒に練習しよう。

 チームは甲子園での阪神3連戦で1点も取れず、午前中の移動で東京ドームに帰ってきた。2人は、室内練習場にこもって、意見交換しながら現状打破を図った。ボウカーは苦手な外角低めを意識しすぎ、そこを追いかけがちだった。だが阿部から「内角に意識を置けば、そこから外角に来ても(上体が)突っ込まないで打てる」と助言された。早い始動が必要になる内角を準備しておく。そこから外角に逃げる球に切り替えても、間に合うし、上体の開きも抑えて対応できる。助言を念頭に置き、試合に臨んだ。

 6回には阿部がお手本を示すように外角の球をセンター前に同点適時打。さらにボウカーは左横手投げの久古に対し、4球連続で外角球を見逃し、5球目の外角ぎりぎりの球をライトへ勝ち越し5号3ランとした。苦にしていたゾーンを粉砕。「阿部の英語はとても上手だよ」と日ごろから信頼を置く仲間との共同作業による1発でチームの呪縛を解いた。ロペスも4号ソロで続き、終わってみれば8得点と、いつもの巨人に戻っていた。

 前日の試合後は「いろんな記録をつくりますね」と苦笑いするしかなかった原監督も満足げだった。「重いスタートの中でボウカーがいい打撃をした。技術があった。ポール際ではなく、スタンド(中央)に入ったから」と内容の濃さを感じていた。負の歴史を止めたボウカーは「ヤリマシタ!」とお立ち台で叫んだ。巨人が本来の姿を取り戻した。【広重竜太郎】