<ロッテ0-2西武>◇2日◇QVCマリン

 西武岸孝之投手(29)が、ノーヒットノーランの大記録を達成した。ロッテ6回戦(QVCマリン)で力ある速球を中心に快投を見せ、許した走者は1回2死から与えた1四球のみ。117球で、史上78人目(通算89度目)、パ・リーグでは27人目(28度目)の快挙を成し遂げた。チームは最下位に低迷し、開幕投手を務めたエースとして責任を感じていた。自身にとっても、チームにとっても今後の巻き返しに向け、最高の勢いがつく勝利となった。

 荻野貴司外野手(28)の打球が一塁側ファウルグラウンドに上がった瞬間、岸は思わず大きくグラブをたたいた。駆け寄るナインと抱き合い、ハイタッチ。頭をはたかれ続けても、笑顔は絶えなかった。「みんな意外と勢いよく来るんだなって。まさか、まさかです。うれしいしか出てこないです」。初めてのノーヒットノーランの味は格別だった。

 立ち上がりから直球がさえ渡った。QVCマリン特有の風で「変化球が思ったより制球出来てなかった。代わりに真っすぐで押せたのが良かった」。奪った8三振のうち、直球で仕留めたのが5。差し込まれた右打者が打ち上げた一邪飛4つも球威の表れだった。初回に出した最速145キロを9回最後の打者でもマーク。7回終了後に意識し始めた大記録を前に、「思い切り投げるしかない」と全力で腕を振り、力強さが失われることはなかった。

 開幕投手を託された今季は2連敗スタート。楽天則本、オリックス金子とのエース対決に敗れた。連続リーグ2位だった過去2年、渡辺前監督から求め続けられたのは、エース対決での勝利だった。それを乗り越えることが出来ず「僕が勝てたら優勝できたと思う」とこぼしたこともあった。それでも今は、自身の勝敗だけに一喜一憂しない。「よく投げていると思ってくれている人が1人でもいれば、それだけで僕は救われる」。たとえ打線の援護がなくても、点をとられなければ負けることはない。それが岸の覚悟だった。

 昨オフに3年総額12億円の大型契約。球団、そして首脳陣から、“エース”を託された。その期待を自覚しながら、自らその言葉を口にすることは決してない。目指すのはチームの勝利。だからこそ、自らの記録よりも「(3連戦の)初戦を勝ったことが一番大きいです」と言い切った。

 ロッテ成瀬との投げ合い。2回に2点の援護にも「2点差では何があるか分からない。それで緊張感を持続出来た」と気を抜くことなく117球を投げきった。報道陣からの「エースとして」という問いにも表情を変えず「チームが勝ってよかったです」と即答した。これでロッテ戦は10年4月から8連勝。チームが最下位に低迷する中、最高の投球を見せつけた。これからも勝利だけのためにマウンドに立ち続ける。【佐竹実】

 ◆岸孝之(きし・たかゆき)1984年(昭59)12月4日、宮城県生まれ。名取北-東北学院大。06年春の仙台6大学リーグでは東北学院大に35季ぶりの優勝をもたらした。06年大学・社会人ドラフト希望枠で西武に入団。当時の監督は、この日の敵将・伊東監督だった。1年目の07年には、西武の新人では松坂以来となる2ケタ勝利を挙げる。08年の巨人との日本シリーズでは、第4戦で初登板初完封。中2日で登板した第6戦では5回2/3を無失点リリーフし、日本シリーズMVPを獲得した。11年はケガに苦しんで8勝に終わり、連続2ケタ勝利は4年でストップ。12年からは2年連続で11勝をマークし、昨オフに3年総額12億円(今季の推定年俸は2億円)の大型契約を結んだ。今季は2年連続となる開幕投手を務めた。180センチ、70キロ。右投げ右打ち。家族は夫人と1男。血液型A。

 ▼西武岸が昨年6月28日の山井(中日)以来、プロ野球78人目、89度目のノーヒットノーランを達成した。西武の投手では96年6月11日渡辺久以来、18年ぶり9人目。許した走者1人だけで達成したのは12年10月8日西(オリックス)以来、15人目、16度目。走者1人だけで完封勝ちする「準完全試合」は前記の西以来、43人目、46度目になる。QVCマリンフィールド(プロ野球では91年から使用)でのノーヒットノーランは初めて。ロッテの無安打は78年、今井(阪急)に完全試合で敗れて以来、球団36年ぶりの屈辱となった。