朝稽古に行った。何を今更と思う方は多いでしょうが、なんせ新米担当、言わば“新弟子”なんで。行く先々、初めてのことばかりで戸惑う反面、新鮮なことこの上ない。

 「記者さん、初めてだろ? ごめんね荒っぽくて。『僕』なんて言って強くなったら、世話ないんだけどさ」。部屋の隅に座る記者に声を掛けてくれたのは、境川親方(元小結両国)だった。

 荒い息づかいと、砂がすれる音。何より100キロを優に超える者同士がぶつかる衝撃。「バシッ」と言うか「ゴンッ」と言うか「ガツッ」と言うか。うまく表現できないが、硬くて、重くて、鈍い音が朝の静かな空気を奮わせる。

 そこに「てめえ!」「バカ野郎!」「何してんだ!」てな罵声が飛ぶ。時代劇に出てくる、けんかっ早い江戸っ子みたいな。…境川親方は長崎出身やけど。

 時津風部屋では、出稽古に来た関脇高安が、新入幕の前頭、小柳改め豊山を三番稽古でくしゃくしゃにした。すっかり息が上がって、まだ髷(まげ)を結っていない髪がザンバラに乱れた豊山を、これまた出稽古に来ていた大関照ノ富士が叱責(しっせき)する。「気持ちが途中で切れてるじゃん」「ほら、もっとあご引かなきゃ」-。冷ややかにも聞こえる、平然とした口調が逆に怖い。

 ぶつかり稽古で、胸を出す先輩が必要以上? にこらえて、若手に押させない、終わらせない。別の部屋では、へたりこんだ若手の背中を、先輩がペシペシ蹴る光景も見た。

 「これに耐えんと、上に行けんのやなあ」。素直にそう思う。

 かつて「かわいがり」が問題になった。「しごき」は「悪」そのものみたいに…。でも、ほんまにそやろか? 強くなるのは難しい。今の自分を超えんといかん。非日常の世界で生き抜くには、非日常の厳しさ、理不尽さに耐えて、打ち勝たんとあかん。

 朝稽古は、いろんな意味で「必要な厳しさ」を教えてくれる。【加藤裕一】