WBC世界ミドル級5位村田諒太(30=帝拳)が、豪快なKOで勝負の16年初戦を飾った。WBCスペイン語圏同級王者ベガ(32=アルゼンチン)と対戦。初回に右ストレートでダウンを奪うと、続く2回に打ち下ろしの右で一気にとどめを刺した。陣営は年内に世界王座挑戦を計画しており、夢の実現に向け、大きな1歩を踏み出した。村田は戦績を9勝(6KO)とした。

 これが俺の右だ。試合開始わずか90秒、村田はロープ際に相手を追い詰めると、迷いなく剛腕を振り抜いた。左側頭部に被弾したベガは、苦しい表情を浮かべ、腰から崩れ落ちた。続く2回、一気に決めにいった。ロープ際に後退させると、右。体を入れ替え、打ち下ろすように、再び右。ふらふらで立ち上がることが出来ない相手を確認し、レフェリーが試合を止めた。

 2戦ぶりの豪快なKO劇に「やっと右の感覚を取り戻せた。左足で重心をコントロールして打ち込めた。右が当たればどんな相手でも倒せると自信になった」。五輪を制した大砲の復活が、何よりの喜びだった。

 屈辱からの再スタートだった。昨年11月のプロ第8戦。消化不良の判定決着に、試合後の控室では部屋の隅に置かれたいすに座り、悔しさのあまり10分以上も動けなかった。日本人48年ぶりの五輪金メダリスト、世界的な激戦階級であるミドル級での偉業-。自問自答の末に、そんなプライドを捨てた。「あの試合で伸びていた鼻が折れた」。

 デビューから約2年半。苦悩の末に行き着いた先はシンプルなものだった。今回の試合に向け、右ストレートで相手をなぎ倒す攻撃的なスタイルに戻すと、自然と読む本も変わった。哲学、心理学とさまざまな畑からヒントを探し続けた読書家が、はっとする1冊に出会った。タイトルは「考えない練習」。人生で初めてノートにメモを取るほど心に合致し、迷いが吹っ切れた。

 世界挑戦が計画される16年。豪快に初戦を飾るも、控室に戻るとすぐに表情を引き締め直した。「良いスタートが切れたが、自分はこの試合に勝つためにやっているのではない。世界王者という夢がある」。日本中を歓喜に包んだ五輪から4年。「勝負の年」に、村田が大きな1歩を踏み出した。【奥山将志】