激しい攻防となった結びの一番に、館内が沸いた。満員のファンの目を奪ったのは、膝を痛めながら奮闘した安美錦(36=伊勢ケ浜)だ。白鵬の突きをこらえ左右に動く。体勢を崩した横綱の背後を取り、送り出しそうになった。だが、最後は後ろを向いた白鵬の右手に振り払われ、足がもつれて崩れ落ちた。
「勝ちたかったね」。安美錦の脳裏に浮かんだのは、先場所まで15年間付け人だった元幕下扇富士の中沢利光さん(38)への思いだった。打倒白鵬へ、一緒に策を練った日々がよみがえると、声が震えだした。「策を全部出した。中沢と一緒に相撲を取ってたみたいだった」。力と知恵を振り絞り、力尽きた一番に、細い目から珍しく涙がこぼれた。
命拾いした白鵬にとっては、大きな1勝だった。歴代2位千代の富士に並ぶ横綱625勝目。「苦しいながらの白星。また1つ偉大な人の記録に並んだわけですから、そう簡単ではなかった気がします」。業師のしつこい攻めを何とかこらえ、ホッとひと息ついた。

