横綱白鵬(30=宮城野)が、困惑の白星を挙げた。先場所敗れた小結嘉風(33)をはたき込みで下したが、張り手狙いの動きが右に変化したようにも見えて、場内は騒然。初日から4連勝も、好勝負とはならず「いいものを見せられず申し訳ない」「勝って申し訳ないというのも変だし」と心は揺れ動いた。

 予期しなかった結末に、勝った白鵬も戸惑った。先場所は10度目の対戦で初めて敗れ、横綱として初の休場へ追い込まれた因縁の嘉風戦。対横綱4連勝中の相手の動きを止めるため、立ち合いの狙いは「張り差し」だった。だが、ホオを張るつもりだった右手は、低く速く突っ込んできた嘉風の後頭部へ。そのまま右に動きながらはたくと、相手はバッタリ手をついた。

 わずか、0秒7。「やっちゃったな。(自分の)懐が深いから、気づいたらああなってた」。思わぬ瞬殺劇に、白鵬も首をかしげて、勝負のカギを握った右手に目を向けた。熱戦を期待した観客のざわめきは収まらない。気まずい雰囲気に、土俵を下りた横綱も、半笑いの表情を浮かべるしかなかった。

 変化か、変化ではないのか。白鵬は「何とも言えないけど、結果的にそうなってしまった。申し訳ないと言ってもねえ。とっさじゃないし。あんな(簡単に)落ちる力士でもないしね」。困惑は、止まらない。「ここに来てる人たちにいいものを見せられなかったのは、申し訳ないというか、勝負の世界だから勝って申し訳ないと言うのも変だし」。「気をつけて頑張ります、という言葉が一番似合うのかな。風呂場でどんなコメントしようか考えていた」と苦笑。前夜に宿舎で楽しんだ卓球の話を持ち出し「卓球やって体が動き過ぎた」と冗談も口にした。

 審判部も「変化説」は否定した。藤島審判長(元大関武双山)は「あれは変化とは違う。張って、相手の圧力をずらしたかったのでしょう。あれは残らないとダメ」と、敗れた嘉風を責めた。スッキリせずに心も揺れたが、初日から4連勝は動かない。残り11日間。白鵬には、場所を盛り上げる時間は残っている。【木村有三】