東前頭筆頭隠岐の海(31=八角)が、秋の主役に名乗りを上げた。最近2連勝中の横綱日馬富士(32)を寄り倒しで破り、2日連続となる4個目の金星を獲得した。同じ横綱からの3連勝と連日金星はともに、1年前の嘉風以来。初日から続く注目の取組で、白星を3つ並べた。大関豪栄道、新入幕の千代翔馬ら4人も無傷3連勝。

 分厚い懸賞金の束を、大事に受け取った。その数、34本。隠岐の海は「記憶にないっすね」とおどけた。綱とりの稀勢の里、鶴竜に続いて、日馬富士も撃破。「自分は挑戦者ですから。負けても文句は言われない。そう簡単には勝てないですよ」。手取り総額288万円に、3つの白星の価値が表れていた。

 立ち合いで左四つになると、意を決して右をねじ込んだ。「横綱もいいところを取っていたから、離したくなかったんじゃないですか」。もろ差しで右に回り込みながら、強引に投げる相手に体を預けた。これで日馬富士戦は3連勝。「思い切っていくしかない。お客さんが沸いて良かった」。再び、座布団が乱れ飛んだ。

 直前の取組に、快進撃の“きっかけ”があった。「嘉関(嘉風)がいい相撲を取りすぎて…。ああいう相撲を取らなきゃ、取らなきゃってなっちゃう」。今場所は3日とも、直前の取組に嘉風がいた。この日も鶴竜と激戦を繰り広げて歓声を浴びる姿に、体が硬くなりかけた。

 だが、嘉風と同じ尾車部屋で公私ともに親しい豪風は隠岐の海について「やるときは本当に、集中してくる。そこは彼を認めています」と明かす。巡業中はいつも一緒。場所前も出稽古し合って、少ない番数で質を求めた。「あいつは短期“すさまじい”集中型です」。その言葉通り、隠岐の海も「結びで集中できたっす」と対応してみせた。

 全勝は5人で、上位陣では豪栄道のみ。主役の座も見えてきた。「そうっすね…。『そうっすね』って(笑い)」と謙遜したが、波乱の中心にいるのは、他の誰でもない。「欲張らず、今日1日という気持ちでやれば、いい方向に行きますよ」。元関脇の実力者が、不気味さを増してきた。【桑原亮】

 ◆大相撲の懸賞金 提供団体は懸賞旗1本につき懸賞金6万2000円と懸賞旗制作費約5万円を協会に払う。6万2000円のうち事務経費を除いた5万6700円が力士手取り。うち2万6700円は納税充当金として天引きされ、のし袋には懸賞旗1本につき現金3万円が入る。