最近、頭頂部に異変を感じている。手のひらでさすると少なくなった髪の毛に手応えを感じるのだ。毛髪の減少に抗えず、2、3ミリに刈りそろえた「仕方のない髪形」の、いまさらながらの妙な元気には思い当たるフシがある。

 4カ月前のことだ。デスクとの定時連絡で「明日、カロ○○○○グレの発表会見に行ってもらえませんか。KinKi Kidsが出るんですよ」と言われた。カタカナが連なる固有名詞の部分がよく聞き取れなかったが、時間と場所と芸能人の名前が分かればなんとかなるものだ。やたらにタイトルの長い新曲の発表会かな、と思った。

 映画担当といっても、その日に行事がたて込むと、ジャンル外のイベント取材が回ってくる。多忙な若手記者が回りきれない部分をカバーするのもロートル記者の大切な仕事、のはずだ。気分転換になってなかなか楽しいものでもある。

 が、その日は現場のホテルに到着して思わずムムッとうなった。発毛促進剤の新製品発表会だったのだ。KinKiの2人はそのCMキャラクターというわけだった。

 デコレートされた発表会場では「開始までのお時間、会場後ろで皆さまのヘアチェックも行っております」と繰り返しアナウンスしている。確かに気になっていた時期はあったが、今では「卒業状態」である。余計なお世話だ。誰が悪いわけではないが、少し腹が立つ。

 メーカーの商品説明に続いてKinKiの2人が登壇した。ひと通りのトークの後、笑いにこだわる堂本剛(36)が「マスコミの皆さんも神経を使うお仕事ですから…。気になっているんじゃありませんか~」と切り出した。いつもはうれしいサービス精神が、この日は重たい。と、クールな光一(36)までが一緒になって舞台前方に出てきた。「さあ、どうかな」。2人に当たるスポットライトを、額に当てた手のひらでよけるようにしながら会場を見回し始めた。

 実は2人とも、ジャニーズの特集ページで1度ずつインタビューしたことがあった。何カ月も前のことで、本人たちがこちらの顔を覚えているわけがないのだが、こうなると自意識の迷走は止まらない。ひたすらうつむき、この「拷問」のような時間が過ぎ去るのを待つ。うつむけば、弱点の頭頂部を視線にさらすことになるのだが、そんなことにも考えは及ばない。

 万が一「そちらの方」と指されたらどうする? 心優しい2人は私の「卒業状態」を目の当たりにしてとまどい、数秒の間が空くはずだ。どうやって埋める? 「手遅れですね。ハハハ」と笑う? 「トライしてみますか」と前向きに語る?…コメントの選択は難しい。会場から笑いが起きればいいが、同情という名の沈黙が支配するような事態になったら最悪だ。せっかくの発表会に苦い瞬間を残すことに-今から思えば無意味な思考がくるくる回る。

 数秒が数十分にも感じられた。照明さんが記者席にスポット当てるようなあざといことをしなかったので、結局その場は何事もなくおさまった。

 で、この「苦行」の末に渡されたのだからと、おみやげの特製シャンプー、コンディショナー、発毛剤のセットを数カ月にわたって使用した結果が、冒頭の異変だったわけである。

 これも苦あれば楽あり、なのか。【相原斎】