電気が止まったら確かに困るが、火を使えば暖を取る方法や調理は何とかなるだろう。バッテリーに残量がある限り携帯は使えるし、乾電池式のラジオがあれば情報収集ができてひと安心だ。だが、強烈な電磁波でそんな機器類も同時に止まってしまったら…。電子ライターは着火しないし、ガスも水道も止まる。

 映画「サバイバルファミリー」(来年2月公開)では、現代人が一気に石器時代並みの状況に追い込まれるパニック映画だ。

 「ウオーターボーイズ」(01年)「スウィングガールズ」(04年)「ハッピーフライト」(08年)に「ロボジー」(12年)。矢口史靖監督(49)は独特の視点で題材を選び、掘り下げる。入念な取材の跡を感じさせる。どこか伊丹十三監督(享年64)の作風をほうふつとさせる。

 大停電や災害を題材にしたパニック作品は数多いが、今回のサバイバルは、あるようで無かった切り口かもしれない。

 会社人間で家事に疎い夫(小日向文世)専業主婦の妻(深津絵里)大学生のおくての息子(泉澤祐希)そして高校生の娘(葵わかな)は携帯命だ。どこにでもいそうな現代の一家は水と食料を求め、自転車で九州の妻の実家を目指す。

 頼り切っていた電気を失い、地に足がつかない4人だが、まとめ買いや値切り交渉で妻が主婦力を発揮したり、理工系の息子がラジエーター用の水を飲料水に転用したり…。以外な「潜在能力」が頭をもたげ、しだいにそれぞれがサバイバル力発揮していくところがミソだ。バラバラに動いていた一家が再生していくところがドラマの軸になっている。

 コンビニの書籍コーナーからは地図が消え、一家には手元に残った小学生用の地図が頼りだ。車はなくても、高速道に乗れば長距離移動で迷わない。矢口監督のストーリー運びにはなるほど感が満載だ。

 疲弊する都市生活者とは対照的に豊かな食生活を送る養豚業者(大地康雄)が出てくる辺りは戦後のたけのこ生活をほうふつとさせ、ここぞとばかりにアウトドア生活を満喫する一家(時任三郎、藤原紀香ら)の登場はいかにも今風だ。サバイバル旅にはこれでもかというエピソードがてんこ盛りで飽きさせない。

 父親の部分カツラが随所で笑いを誘う有効なツールになっている。バラエティー番組とは違い、リアルな生活感の中で小日向の言動が絶妙の間合いだ。

 自分の中にはどれほどのサバイバル力、野性の力が残されているのだろうか。ついついわが身を振り返ってしまう作品だ。

 秘めたる野性という意味ではドイツ映画「ワイルド わたしの中の獣」(ニコレッテ・クレビッツ監督、24日公開)も面白い。

 鬱々(うつうつ)とした毎日を送るOL(リリト・シュタンゲンベルク)は、ある日公園で見かけた野性のオオカミに目を奪われ、脳裏から離れなくなる。下請け工場の移民の女性たちに小遣い銭を渡して協力を呼びかけて捕獲。自宅アパートの1室で飼育を始める。

 室内がボロボロになるのに並行して、OLとオオカミの間には恋愛感情のようなものが芽生えていく。オオカミが飼いならされるというよりは、OLの方が野生化していく過程となる。

 出演したのはCM経験もあるタレント・オオカミだったが「犬とは違います。そもそも人を喜ばせようとは思ってないですし、どうでもいいんですよね。そこが彼らの魅力でもあります。だからリリトにとっては危険に身を晒しながらの撮影だったわけです」とクレビッツ監督は振り返る。そんな緊迫感は映像からも十分伝わってくる。

 オオカミの影響で彼女の秘めた魅力が殻を破り、振り向きもしなかった上司が「異性」を意識するようになる。だが、野生化はさらにエスカレートして…。窮屈な現代社会を「野性」が気持ちいいほど突き抜ける。

 移民たちに猟の経験があったり、狩猟用麻酔薬の入手のいきさつが描かれたり-と細部にリアリティーがあるので、一見とっぴな筋立てにも引き込まれる。

 こちらも、いつの間にか内なる野性を考えさせられる1本だ。【相原斎】

「ワイルド わたしの中の獣」の1場面(C)2014 Heimatfilm GmbH + Co KG
「ワイルド わたしの中の獣」の1場面(C)2014 Heimatfilm GmbH + Co KG