月刊ミュージカル最新号が2016年に国内で初演された「ミュージカル・ベスト10」を発表した。評論家や記者ら26人の投票によるもので、私も参加した。

 それによると、1位は「ジャージー・ボーイズ」。以下、<2>ノートルダムの鐘<3>キンキーブーツ<4>1789<5>グランドホテル<6>手紙<7>For the people<8>るろうに剣心<9>Shakespeare<10>ラディアント・ベイビーだった。

 ちなみに私は<1>ノートルダムの鐘<2>手紙<3>ジャージー・ボーイズ<4>キンキーブーツ<5>グランドホテルの順で投票した。

 「ノートルダムの鐘」は差別、不寛容な潮流がまん延する時代に、強いメッセージ性を打ち出した舞台だった。米国では地方公演だけで、ブロードウェーでは未上演だが、劇団四季は「大人に見てほしい作品」と、リスクを覚悟の上で上演に踏み切った。歌唱、演技、ステージングともに質が高く、劇団としての総合力を実感した舞台だった。

 東野圭吾の同名小説をもとにした「手紙」には泣かされ、「シェリー」の曲などで知られる米国の4人グループ「フォーシーズン」をモデルにした「ジャージー・ボーイズ」ではフランキー・ヴァリ役の中川晃教の歌声に魅了された。ともに演出は藤田俊太郎。蜷川幸雄のもとで演出助手を10年近く務めた気鋭で、師匠譲りの緻密かつ大胆な演出を見せた。

 「キンキーブーツ」はドラッグクイーンを演じた三浦春馬のはじっけぷりに圧倒された。本格的なミュージカルは初めてだったが、歌のうまさには驚かされた。若手を対象にした読売演劇大賞杉村春子賞を受賞したのも当然だった。

 ベスト10には宝塚歌劇団の作品が3本も入っているが、リンカーンの半生を描いた「For the people」は若手の演出家原田諒の作品で、専科の轟悠がリンカーンにふんして見応えがあった。

 ちなみに「手紙」の脚本を担当したのは四季出身の高橋知伽江さん。大ヒットしたアニメ映画「アナと雪の女王」の訳詞でも知られている。「ミュージカル・ベスト10」以外に、男優・女優のベスト10も掲載されているが、その顔ぶれを見ても、日本のミュージカルは四季と宝塚が支えていることが良く分かる。【林尚之】