ずーっと気になって見ていた俳優が脚光を浴びることほど、うれしいことはありません。山西惇(61)。昨年出演した新国立劇場公演「エンジェルス・イン・アメリカ」、こまつ座「闇に咲く花」の2作品の演技が高く評価され、読売演劇大賞の最優秀男優賞、芸術選奨文部科学大臣賞の「二冠」を獲得しました。

テレビでは20年ほどレギュラー出演しているテレビ朝日系ドラマ「相棒」の角田課長役でおなじみでしょう。コーヒーカップを手に水谷豊演じる杉下右京のもとに歩み寄り、「ヒマかっ?」と声をかけるのが定番シーンです。最近は京大工学部出身という高学歴が買われて、クイズ番組の常連となっていますが、正答率も高いのはさすがです。

もともと京大生を中心とした学生劇団「そとばこまち」に在籍し、2歳年上で同志社大から参加していた生瀬勝久とも共演していました。卒業後は石油化学メーカーに就職しましたが、休日や勤務後の時間を利用して「そとばこまち」公演に出演。そして、人生の転機が訪れます。公演日とハワイでの研修の時期が重なり、その選択に悩んでいた時に生瀬が「食うくらいなら、なんとかなるで」と声をかけ、山西の背中を押しました。

かつてはアクの強い役が多かったのですが、最近は人のいい役回りも増えました。それだけ俳優としての腕が上がったということでしょう。ちなみに、「そとばこまち」時代から名乗っている「山西惇」は本名ではなく、芸名です。高校時代に顔がよく似ていると言われていた2年先輩の姓である「山西」を勝手に借用したそうです。

読売演劇大賞の授賞式では、昨年の最優秀男優賞受賞者で舞台共演も多い段田安則からトロフィーを受け、「受賞の知らせに、自分でもどうかと思うくらい泣きました」と明かしました。さらに「コロナ禍で落ち込んで、一時は役者をやめようかと思った」ものの、2009年に結婚した19歳年下の妻や4人の子供たちに前向きに支えられ、迷いをふっ切ったそうです。最後に山西は「すばらしい舞台と出会い、僕の人生は狂いました。狂ったからこそ、ここに立っています」。狂い、迷った末に、最高のご褒美が待っていました。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)