春ドラマ界を、フジテレビヤングシナリオ大賞出身の脚本家たちが席巻している。一昨年の大賞受賞者が本家フジ月9枠を手掛けているほか、他局の連ドラなど主要枠の6作品が歴代大賞受賞者によるものだ。自社ドラマの視聴率が振るわないのは皮肉な話だが、即戦力の脚本家輩出という分野では他局を圧倒している。

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 民放の主な春ドラマを手掛けているヤングシナリオ大賞出身の脚本家は以下の通り。

◆フジ月9「ラヴソング」倉光泰子(14年大賞)

◆フジ日曜9時「OUR HOUSE」野島伸司(88年大賞)

◆日テレ水曜10時「世界一難しい恋」金子茂樹(04年大賞)

◆日テレ土曜9時「お迎えデス。」尾崎将也(92年大賞)

◆TBS火曜10時「重版出来!」野木亜紀子(10年大賞)

◆TBS金曜10時「私、結婚できないんじゃなくて、しないんです」金子ありさ(96年大賞)

 佳作受賞者を入れればその数はもっと増えるし、前期の冬ドラマに戻れば、フジ月9「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」の坂元裕二、フジ「フラジャイル」の橋部敦子、日テレ「怪盗山猫」の武藤将吾、テレ朝「スミカスミレ」の古家和尚らも歴代の大賞を受賞した売れっ子たちだ。

 同賞がドラマ界を席巻している理由について、シナリオスクール最大手、シナリオ・センター(東京都港区)小林幸恵社長は「月9を書く即戦力を求めているので、プロデューサーが企画を出させて1年くらい現場主義で育てていくシステムがある」と話す。現在の5大コンクールは「ヤングシナリオ大賞」「創作テレビドラマ大賞」(NHK)「TBS連ドラ・シナリオ大賞」「テレビ朝日新人シナリオ大賞」「WOWOWシナリオ大賞」の5つ。映像化の有無やカラーなどそれぞれ特色があるが「即戦力」にこだわりどんどん現場に出していく育成ぶりは、ヤングシナリオ大賞が群を抜くようだ。

 ここ数年でも、10年大賞の野木亜紀子氏は2年後に月9「ラッキーセブン」を手掛け、12年大賞の小山正太氏は2年後に火曜連ドラ「ビター・ブラッド」、その翌年に月9「5→9」を書いている。福山雅治主演で放送中の月9「ラヴソング」を手掛ける倉光泰子氏も2年前の大賞受賞者だ。小林氏は「新人はオリジナルを書いて成長する。月9でオリジナルを書かせていくというヤングシナリオ大賞の趣旨は、新人の成長には大きい」と話す。

 同コンクールは87年に創設。第1回大賞は坂元裕二氏だった。立ち上げに関わったフジの制作幹部は「月9がまだ何のブランドでもない時代。大御所の先生方は脚本を書いてくれないので、書いてくれる同世代の作家を発掘し、すぐ登板してもらう目的で始まった。現場で経験を積めるのが強みで、その伝統が生きているんでしょうね」。

 実際、徹底的な即戦力志向で、第2回大賞の野島伸司氏は受賞から半年で「君が嘘をついた」(88年)を書き、91年の「101回目のプロポーズ」まで毎年月9に起用されている。「ドラマ作りは、プロデューサーと脚本家のコンビネーション。それは現場でしか育たない。自分たちの書いたものが映像化され、視聴者の目に触れ、視聴率が出る。そういう体験を何度も何度もして、お互い勉強していく。コンクールで好きなものを書いているのと、表通りで商売するのは全然違いますから」。

 放送中の「ラヴソング」も、一昨年の審査委員長を務めた草ケ谷大輔プロデューサーと、大賞受賞者倉光泰子氏のコンビ。まだ30代前半の若いコンビだ。草ケ谷プロデューサーは倉光氏について「今後一緒に組んでドラマを作っていける人として大賞に選んだので、昨年の企画の段階から二人三脚で作品を作り上げてきた」。今回の脚本についても「周囲になじめずぽつんと1人でいる子のリアリティーを、型にはまらない発想と説得力で描いている」とし、作品の魅力を全体としてどう盛り上げるかという課題にも、二人三脚で取り組んでいる。

 そんな風に手塩にかけた多くの人材がはばたき、他局ドラマに引っ張りだこの現状に、制作幹部は「いつかはフジを卒業するのは仕方のないことで、ドラマ界全体が活性化するんだから全然いいですよ。いいんだけど…」と苦笑いする。「そのライターがいちばんの上り調子の時はフジで書いてほしいということ。だってフジの連ドラを当てるためにやっているんだから」と本音も語る。「とはいえ、ヤングシナリオ大賞出身者がいろんなところで頑張っていて、そこを評価してもらえるのは素直にうれしい」。思いは複雑だ。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)