歌舞伎俳優市川海老蔵(38)の長男、勸玄くん(3)が、パパの歌舞伎に感動して泣いてしまったという。海老蔵がブログで書いていたのだが、実は私もその舞台に大いに感動した1人だ。麻央夫人(33)が闘病中という胸の内は計り知れないが、「瞬間瞬間を大事に」と臨む舞台は気迫みなぎる圧倒的なパフォーマンス。割れるような拍手とどよめきを一身に集める役者の姿は、確かに子供が泣くほどかっこよかった。

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 勸玄くんが泣いたというのは、歌舞伎座七月大歌舞伎の「鎌髭(かまひげ)」と「景清」。平家再興の野望を持つ不死身の残党、景清が、敵の源氏チームに乗り込んで、酒合戦や力比べ、牢(ろう)破りなどの快刀乱麻を繰り広げる痛快劇だ。どちらも市川団十郎家ゆかりの歌舞伎十八番で、勸玄くんのDNAに響くものがあったのかもしれない。

 そもそも長身でイケメンの海老蔵は、おおらかで勇壮な「荒事」キャラがよく似合う。隈(くま)取りと豪華衣装というダイナミックな姿で花道に登場すると、場が一気に華やかになる。何かやってくれそうなオーラが匂い立ち、観客をくぎ付けにしていた。

 かめ2つ分注がれた酒を「この程度じゃ酔いませぬ」とがぶがぶ飲んでがんがん笑わせ、キモい老婆のお酌には「遠慮いたす!」と拒否って爆笑が起きる。人間味あふれるヒーロー像で沸かせたかと思えば、チーム源氏が鍛冶屋に化けているのをいいことに、「研いでおけ」と刀を預けてしまったり、義経も頼朝も腰抜けだったと挑発したり。やれるもんならやってみろという大胆さに、客席も前のめりになっていく。

 負けた平家の悔しさという影も背負っていて、単なる正義のヒーローではないのもいい色気。舞台上での早着替え、花道での「にらみ」5連発、舞台装置が一丸となった牢破りの破壊力など、歌舞伎の離れ業を大盤振る舞いする海老蔵ワールドで、劇場を支配したまま幕となるラストは、観客が立ち上がって拍手を送る大変な熱気だった。

 海老蔵のブログによると、楽屋に戻ると勸玄くんがいて、涙していたのだという。「カンカン感動したの? と聞いたら、うん、だってさ、、、こっちが感動するわ」と、涙マークの絵文字でつづっていた。取材記者の目線で見ていても腰が抜けるような感動があったのだ。勸玄くんの目にはいかばかりかと、読んでいて微笑ましかった。

 市川新之助時代はやんちゃ伝説に事欠かなかった海老蔵だが、麻央夫人と結婚し、若くして成田屋を率いる立場となり、2人の子供に恵まれ、いいパパになって、息子から自分の仕事に感動されるような俳優になった。麻央夫人の病状について語った6月の会見で「麻央を支えるための仕事。どれだけその瞬間瞬間を大事に過ごせるかに費やしている」と語っていたけれど、こんな時でも言葉通りの全力パフォーマンスで客を沸かせるのだからさすがだ。

 景清もかっこいいが、海老蔵もかっこいい。そんなスピリッツが3歳の子にも伝わったから、勸玄くんは涙したのだと、勝手に思っている。

 七月大歌舞伎は歌舞伎座(東京都中央区)で、26日まで。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)