1月期の冬ドラマが出そろった。「逃げるは恥だが役に立つ」の大ヒットで恋愛ドラマが活気づくかと期待されたが、古典的な結婚願望系ばかりで見応え薄の印象だ。「勝手にドラマ評」29弾。今回も単なるドラマおたくの立場から、勝手な好みであれこれ言い、★をつけてみた(シリーズものは除く)。

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フジテレビ系連続ドラマ「突然ですが、明日結婚します」の西内まりや(右)と山村隆太=1月8日
フジテレビ系連続ドラマ「突然ですが、明日結婚します」の西内まりや(右)と山村隆太=1月8日

◆「突然ですが、明日結婚します」(フジテレビ系、月曜9時)西内まりや/山村隆太

★★

 結婚して専業主婦になりたい女VS結婚したくない男。主人公の職業も分からないまま、水族館、知人の結婚式、女子会、早朝マラソンと場所を変えては「結婚結婚」と騒ぐ大混乱な脚本。最上階ペントハウスで毎晩おしゃれな女子会とか、OLの暮らしを無視した月9のバブル病に今回も視聴者層がスルーし、視聴率6%台に。雨の中ずぶぬれで歩くと男が傘とか、ベタの山もしんどい。ここまで専業主婦にこだわる理由が「母みたいになりたい」だけでは、主婦業をあれだけ掘り下げた「逃げ恥」の後で見劣りがする。留学予定を中止して主演を引き受けた西内まりやのガッツにフジは報いるべき。flumpool山村隆太がかっこいいのが救い。

◆「嘘の戦争」(フジテレビ系、火曜9時)草なぎ剛/藤木直人/水原希子

★★★★★

 今期イチオシ。「銭の戦争」スタッフによる“復讐シリーズ”第2弾。9歳の時に家族を殺された主人公が、天才詐欺師となって当時の関係者を破滅させていく。殺すのではなく、金や名誉、家族など今の幸せをすべて奪うところに主人公が味わった地獄があり、毎週1人ずつ沈めていく手腕に胸躍る。怒りのダークヒーローを草なぎがはらわた煮えくり返して演じており、冷え切った表情にぞくぞくする。墓石から最新ツールまで、情報の取り方を心得たダマしの凄テクが随所にあり、心理学トリビア満載の立ち回りもなるほど感。相棒3人とのチームプレーもあざやか。清掃員、弁護士など何にでも化ける水原希子が頼もしく、共演女優が魅力的に見える草なぎマジック。ヒール役の藤木直人も歯応えあり。

TBS系連続ドラマ「カルテット」の完成披露試写会に登壇した出演者たち=1月9日
TBS系連続ドラマ「カルテット」の完成披露試写会に登壇した出演者たち=1月9日

◆「カルテット」(TBS系、火曜10時)松たか子/満島ひかり/高橋一生/松田龍平

★★★★

 「逃げ恥」の後番組は、坂元裕二脚本の大人テイスト。弦楽四重奏を結成した演奏家4人の共同生活と、実は偶然の出会いではないサスペンス。「から揚げにレモン」など、食べ物トークが人間性にまで発展していく会話劇のおかしさと、やがてむき出しになるそれぞれの人生が胸をえぐる坂元印。松に漂う天性の魔物感が腹の探り合いをまとめていて、音を合わせながら芽生えていく4人の連帯感を外からのぞき見しているような舞台向きな味わい。俳優が最も出たがる脚本家とか、本当のドラマ好きが見る脚本家とか、ハイブローな雰囲気に個人的には脱落しそう。ながら視聴が多いテレビ周辺の環境で、このテイストがどう持ち味を発揮するか。

◆「東京タラレバ娘」(日本テレビ系、水曜10時)吉高由里子/栄倉奈々/大島優子

★★★

 結婚したい30歳女子3人組。テンポと決め手に欠く脚本で、3年ぶり連ドラ主演の吉高由里子が生かされず残念。坂口健太郎との出会いが「よそ見していたら道でぶつかる」というご都合主義で、その後も「表参道でバッタリ」「居酒屋の出口でバッタリ」「バッティングセンターでバッタリ」と、広い東京で鉢合わせ頼み。必然が偶然を引き寄せるところに運命的なドラマがあるのに、そこがイージーだとなえる。高品質だった「校閲ガール」の後番組だけに残念。CSで再放送中の「想い出づくり」の3人娘(森昌子、古手川祐子、田中裕子)が面白すぎて、山田太一と比べちゃいかんと自戒中。胸に矢が刺さるCGや、脳内キャラが幻覚で現れる演出は「アリーmyラブ」だろうか。

テレビ朝日系連続ドラマ「就活家族」の制作発表会見を行う出演者たち=1月4日
テレビ朝日系連続ドラマ「就活家族」の制作発表会見を行う出演者たち=1月4日

◆「就活家族」(テレビ朝日系、木曜9時)三浦友和/黒木瞳/前田敦子/工藤阿須加

★★★★★

 4人全員が就活することになってしまったエリート家族のいばらの道。セクハラ地雷やモンスター就活生など、あらゆる組織のわなにはまって会社を追われたエリートを三浦友和がエネルギッシュに演じていて圧倒される。内定ゼロでヤバい就活塾にはまる長男が激アツ。青臭い工藤阿須加と、うさん臭い塾長新井浩文のコンビが素晴らしい。教師の妻は生徒の家でブラジャー1枚の屈辱、男にだらしない長女はノルマ地獄で枕営業へ。それぞれの地獄絵図が韓流ドラマのようなジェットコースターで描かれ、展開に興味がわく。失業族の段田安則に「あなたとは違う」と言いながら結局飲んでいる三浦友和のぐずぐす感に爆笑。どこか滑稽で重くなりすぎない作風なので、トンデモな崩壊と再生を見届けたい。

フジテレビ系連続ドラマ「嫌われる勇気」主演の香里奈=1月12日
フジテレビ系連続ドラマ「嫌われる勇気」主演の香里奈=1月12日

◆「嫌われる勇気」(フジテレビ系、木曜10時)香里奈/加藤シゲアキ

★★★★

 「すべての悩みは対人関係の悩み」であり、もし他者から嫌われることを恐れない人物が刑事だったら。そんな角度から話題のアドラー心理学にアプローチした意欲作。起こる事件も、組織から浮く香里奈のKY捜査も普通に面白いだけに、アドラー心理学が事件を解くカギになっていない空回りがもったいない。アドラー女子とうまく付き合うコツを、相棒加藤シゲアキが心理学教授に教わる対話形式。そんな遠回りで流れを止めるより、学んだことを彼自身が現場で実践した方が分かりやすいのでは。香里奈の「明確に否定します」のキメぜりふも、「死ぬくらいなら嫌われれば良かったんです」などのせりふも魅力的。単にドS美女の異色捜査として楽しむのが正解かも。

TBS系連続ドラマ「下剋上家族」の完成披露試写会に登壇した出演者たち=1月8日
TBS系連続ドラマ「下剋上家族」の完成披露試写会に登壇した出演者たち=1月8日

◆「下剋上受験」(TBS系、金曜10時)阿部サダヲ/深田恭子

★★★★

 中卒の父と偏差値41の娘が、二人三脚の勉強で中学受験に挑む。「ビリギャル」の小学生版かと思ったら、実話ノンフィクションだった。働き者だからこそ、学歴の壁に立ちすくむ父親のあせりに説得力があり「すてきな人生にはどこか別の入り口があるんだ」という悔し涙に迫力あり。元ギャル妻の深キョンがかわいい上、「今だって幸せじゃん」と中卒上等の立場なのもいい。冷えた親子関係の要潤サイドともいいストーリーがありそうで、会社サイドの風間俊介との物語もいい。それだけに、地元の仲間たちのバカ騒ぎシーンで流れが寸断されるのが謎。毎週、なんだかんだ斉藤和義の主題歌に泣けて終わるいい後味。

◆「スーパーサラリーマン佐江内氏」(日本テレビ系、土曜9時)堤真一/小泉今日子

★★

 謎の男からスーパーマンの能力を引きついだ中年サラリーマンが、身近なもめ事を解決。「勇者ヨシヒコ」シリーズなど、深夜のおバカ路線で熱烈な支持を集める福田雄一監督がゴールデン枠で。堤真一のスーパーマン姿という出オチなので、犬を助けたり、見積書をマッハでお届けするなどの変身ざんまいが単調に感じられた。小ネタと脱線トーク。くだらなさという福田ファンの期待は裏切らないが、藤子・F・不二雄特有の日常のSF感や物語性がにじまないのは、原作世代には少々残念。キッズ層、ティーン層向けの枠だからこそ、攻めた人間ドラマも見たかった。受け手の好みで評価が分かれそうなのは、エンタメとして健康的。

◆「A LIFE~愛しき人~」(TBS系、日曜9時)木村拓哉/竹内結子

★★★

 古巣に戻った天才外科医の活躍と、昔の恋人が脳腫瘍という苦悩。「HERO」系のカジュアル天才路線かと思ったら、準備と練習がまっとうな結果を生む正統派医師で好感。「ドクターX」がスーパードクターの離れ業なら、こちらは職人寄りの頼れる色気。臨場感漂う手術シーンもいい。「俺の大丈夫には根拠がある」の2話は、主人公の職業センスと誠実さがにじむいいストーリーだった。生意気盛りの若手を育てる中年という、木村の年相応の新境地も新鮮で、松山ケンイチもずばぬけ。それだけに、ヒロインがめそめそした守られキャラで興ざめ。子持ち人妻との華のない恋愛要素より、手ごわい元カノ医師とのさっそうとしたものを見たかった。

◆「大貧乏」(フジテレビ系、日曜9時)小雪/伊藤淳史

★★

 シングルマザーのホームドラマ、シリアスな企業サスペンス、ドタバタラブコメ。あれもこれもでジャンル不明の仕上がり。小雪に貧乏や肝っ玉母さんは無理があるし、夕食にカップラーメンがあり、息子をサッカーチームに通わせる暮らしのどこが「大貧乏」なのかも戸惑う。リッチマンが子守や金銭的援助をしてくれるのも、世の中のリアルシングルマザーがキレそう。伝統的に貧乏を描くのがヘタなフジテレビ。風間トオルがバラエティーで披露している極貧エピソードの方がよほどドラマチック。個人的には、妙にやり手な伊藤淳史弁護士の方が面白い。片思いパワーで奮起する寅さん的リーガルコメディーなら定期的に見たい。今期の最悪タイトル賞。

日本テレビ系連続ドラマ「視覚探偵 日暮旅人」の完成披露試写会を行った松坂桃李(左)と堤幸彦監督=1月18日
日本テレビ系連続ドラマ「視覚探偵 日暮旅人」の完成披露試写会を行った松坂桃李(左)と堤幸彦監督=1月18日

◆「視覚探偵 日暮旅人」(日本テレビ系、日曜10時半)松坂桃李/多部未華子

★★★

 感情や臭いなど、目に見えないものが見える特殊能力を持つ、探し物専門探偵の日常系ミステリー。視覚以外の感覚を失っている設定、登場人物の複雑な関係など、SP版を見ていないと分かりずらい1話だった。物に宿る記憶や思い出という温かい物語と、主人公が抱えるダークな事情の2層構造で、白キャラも闇キャラもいける松坂桃李がハマる。主人公に見えている世界をCGやプロジェクションマッピングで映像化し、特に夜は美しい。脚本と息が合わないのか、小ネタとしつこさの堤幸彦ワールドが挫折ポイント化していて残念。先生化をコントロールできるプロデューサーや脚本家と組んだ作品がそろそろ見たい。人の蹴り飛ばし方がキレッキレのシシド・カフカのドSぶり。今期いちばん目が離せない。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)