13年7月に亡くなった上方の“骨太”派落語家、笑福亭松喬さん(享年62)の筆頭弟子、笑福亭三喬(55)が来年秋、7代目笑福亭松喬を襲名することになり、三喬が25日、大阪・道頓堀の角座で会見して発表した。

 襲名興行は来年秋に大阪松竹座と、東京、名古屋でも予定。10年から色ものなし、落語のみで上演してきた「第7回 三喬三昧」を、今年は10月29日に初めて、大阪松竹座で開催。「三喬」として、大掛かりな落語会はこれが最後になるという。

 「師匠は35~36歳で鶴三(かくざ)から松喬を襲名して、やっぱり名前にあわせて虚勢を張ってた部分もあったと思う。でも、僕はもう(襲名時には)56歳になるし、年なりにやっていきたい」

 堅実な落語で知られる松喬一門の筆頭らしく、落ち着いて語った。もともと「名前、襲名には執着がなかった」と言い、昨年秋の「三喬三昧」後、所属の松竹芸能から襲名の打診があった際には、いったん固辞。師匠夫人や6代目笑福亭松鶴一門の総意もあって、今年4月に襲名を決断した。

 ただ、松喬の名前には感慨も深い。三喬は入門3年目で、師匠が「6代目松喬」を襲名する様子を見ており「ちょうど、6代目(松鶴さん)が師匠(松喬さん)に『鶴三に松喬をやりたい』言う話をそばで聞いてた」と振り返る。

 「あの時のその名前を…と思うと、不思議な縁を感じております。うれしさと、ちょっと親孝行できたかなという思いはあります」

 上方で「松喬」と言えば、武骨な本格落語家として知られてきた。落語会、独演会には一切、色ものを出さず、トークコーナーもなし。出演者全員が落語だけをやるというのが、松喬門下の“お家芸”だった。

 その気風を存分に受け継いだ三喬は「ここに松喬がおったらな、という空気はやっぱりある。僕が継ぐことで『ああ、ここに松喬おるがな』と言われるようになりたい」とも話す。

 “三喬最後”の「三喬三昧」では、6代目松鶴一門伝統の「らくだ」にも挑戦する。「僕は酒が飲めんので、らくだは一生しませんと師匠に言うてましたが、やっぱり…」。酔っぱらいの芝居が見せ場のひとつの「らくだ」を避けてきたものの、襲名に当たって、意識も変わってきた。

 襲名にあたっては、すでに、6代目松鶴一門では最古参の笑福亭仁鶴(79)にも報告。仁鶴からは「自分の歩幅で歩いていったらええ」と背を押された。

 上方落語協会会長の桂文枝(73)からは「長男には責任があるわな。僕も三枝の名前を捨てるのに勇気がいった」と言われたといい、さらに「僕も三枝の名前はいずれ変わると言われ続けてきたから、境遇は同じやな」と共感しつつ、応援してくれているという。

 昨年から今年、桂米朝さん、桂春団治さんが亡くなり、戦後の上方落語を復興させた「上方四天王」は全員、鬼籍に入った。文枝らに続く次世代の本格派台頭は、上方の次の目標でもある。三喬もその期待を痛感し「高座のエースになってやろうという気持ちです」と話している。