「ビッグバジェットの映画ではなく、どうしてこういう貧しい映画を作ったのですか」

 先日、外国特派員協会で、アルツハイマーと闘う夫婦を描いた映画「八重子のハミング」の試写会と会見が行われ、佐々部清監督に投げかけられた質問だ。

 佐々部監督は「半落ち」「陽はまた昇る」など、大規模予算の映画でも知られている。「八重子のハミング」は、佐々部監督が8年以上かかって、資金を集めて作ったため、質問者には不思議だったのだろう。なぜ、大手の映画会社で大規模な予算を使って作らなかったのか、と。

 佐々部監督は「本当は僕もメジャースタジオで、たくさんの予算を使って作りたかった」と苦笑いした。佐々部監督によると、シナリオを書いて、いろいろな映画会社に持ち込んだが、すべて断られたという。「中高年夫婦が主人公、アルツハイマーが主題の映画は地味」という理由だった。それでも、シニア層が見られる映画が少ないという声に後押しされ、佐々部監督は自分で映画を作ることを決意した。

 アルツハイマーを描いている映画だが、夫婦の愛情の物語だ。佐々部監督は、冒頭の質問に「『貧しい』とおっしゃいましたが、メジャースタジオで作っているどの作品より、人間的に豊かな作品だと思います」ときっぱり答えていたのが印象的だった。