東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県釜石市の遺体安置所の出来事が映画化されることが6日、分かった。ノンフィクション作家石井光太氏(35)のルポルタージュの映画化「遺体

 明日への十日間」。主演は西田敏行(64)が務め、安置所で世話役として働いた民生委員を演じる。福島県出身で被災地に何度も足を運んでいた西田は当初、参加に迷いもあったが、製作陣の思いに心を動かされて出演を決意した。撮影は既に終了しており、メガホンは君塚良一監督(54)がとった。来年3月公開。

 釜石市は地震と津波による死者、行方不明者が1000人を超えた。映画「遺体-」は、石井氏が同市内にあった遺体安置所で目にした出来事をまとめたルポ「遺体

 震災、津波の果てに」を原作としている。西田演じる民生委員を主人公に、遺体安置所で働いた人々や、遺族が犠牲になった人たちをどのように弔い、見送ったのかを描く。大震災発生以降、ドキュメンタリーなど被災地を扱った作品も作られてきたが、大震災そのもの、もしくは直後の壮絶な現場の様子を映像化したものは、ほとんどない。今回は、遺体を捜す遺族に寄り添い、その思いを静かに受け止めながら安置所に立ち続けたボランティアの視点から、大震災を見つめる。

 出演依頼を受けた西田は当初「ご遺族の方々の心情を考えると、劇化するのは『はたして正しいのかどうか』という判断には非常に迷いました」という。それでも、君塚監督をはじめ製作側にあった「当時、報道のカメラが伝えられなかったこともある。風化させたくない」という思いに心を動かされ、出演を決意。撮影開始前の今年春、安置所があった場所を訪れ、自分が演じる民生委員のモデルになった人物と対面し、話を聞いた。

 5月20日にスタートした撮影は、おもに群馬県高崎市で行われ、6月27日に終了した。作品を一足早く見た西田は「作って良かったと思っています」と振り返った。「亡くなられた方々の尊厳を、生きている方々が守ろうとする思いを表現したつもりですし、『日本人の死生観』を描いたといっても過言ではないと思っています」。君塚監督は「亡くなった人の尊厳を守った日本人の良心を伝えることがこの映画の役目」と話した。

 また、作品がモントリオール世界映画祭(23日開幕)のワールドグレイツ部門で上映されることも決まった。