第26回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原裕次郎記念館協賛)が9日、決定した。

 2年連続4度目の受賞に降旗康男監督が照れ笑いを浮かべた。70年代から親交のあった裕次郎さんの名が刻まれた名誉ある賞。「ある意味、裕次郎さんに最も愛された男かもしれませんね」と笑った。昨年は高倉健(82)と組んだ「あなたへ」で受賞。2年連続の同賞受賞は史上初のこと。

 太平洋戦争下の激動期の神戸が舞台。妹尾氏の少年時代の実体験をもとにした小説を丁寧に映像化したが、戦死者はあえて登場させていない。「描いたのは戦場ではない場所の戦争。『銃後』の人たちは、戦局も分からないところで生活していた。だから戦闘を描かない方が緊迫感が出ると思った」。意識したのは、庶民の戦いだ。「スパイ容疑で逮捕される、うどん屋のお兄ちゃんとか、出兵後に脱走して自殺した映画館の映写技師とか、当時の世の中を象徴する情景だったのでは」と意図を明かした。

 自分の戦争体験と撮影技術の融合がスケールの大きな作品へと押し上げた。「B29の編隊や焼夷(しょうい)弾の再現性は、デジタル技術があってこそ。10~15年前だったら、技術がなくて不可能だったでしょう」。現場には、戦争を知らない若手スタッフも増えた。「私が終戦を迎えたのは10歳の時。自衛隊に行ったりして資料を集めました」という。

 言論や思想の弾圧が当然だった当時にも、ぶれない価値観はあった。水谷が演じた少年Hの父親は「自分の目で見て、考えて」と息子に教え込んだ。降旗監督にも似た体験がある。「国民学校時代、『日本は戦争に負ける。少年兵に志願してはいけない』と教えてくれた先生がいた。Hの父みたいな人でした。それも、この映画を撮りたいと思ったきっかけです」。恩師の教えを70年越しで形にすることができた。「危険を顧みず話してくれた先生に、1000分の1でも恩返しできたかな」。少しだけ胸を張った。【森本隆】

 ◆降旗康男(ふるはた・やすお)1934年(昭9)8月19日、長野県生まれ。東大卒業後、57年に東映入社。66年「非行少女ヨーコ」で監督デビュー。同年「地獄の掟に明日はない」で高倉健主演作を初監督。以後も「新網走番外地」シリーズや「居酒屋兆治」「鉄道員(ぽっぽや)」など高倉とのコンビ作を多く手掛ける。78年からフリー。昨年「あなたへ」で石原裕次郎賞を受賞。

 ◆少年H

 昭和初期の神戸。洋服の仕立てで生計を立てる父(水谷豊)と愛情あふれる母(伊藤蘭)のもと平凡ながら幸せに暮らすH(吉岡竜輝)ら家族が太平洋戦争で運命をほんろうされる。仕事上、外国人との付き合いもある父はスパイ容疑をかけられ、妹(花田優里音)は疎開に出される。やがて空襲で焼け野原になった神戸で家族は力強く再出発を誓う。

 ◆石原裕次郎賞・選考経過

 「そして父になる」と「少年H」に票が集まった。「そして-」には「地味な作品なのに興収31億円もいくとは」(石飛徳樹氏)との声も上がったが「映画らしい映画。焼け野原など、印象に残るシーンが多い」(林雄一郎氏)など称賛する意見が多かった「少年H」が決選投票を制した。ちなみに「舞台の神戸は裕次郎さんの出身地」(仲川幸夫氏)という声も。