先日、初夏の陽気に誘われてハンドサイクルで代々木公園を走ってきました。手でこぐ自転車です。10年ほど前に米国のメーカーから購入しました。見た目がスポーティーでかっこよく、足でこぐ自転車と同じように風を切る心地よいスピード感を味わえて、楽しめます。私はふだんの買い物にも使っています。

 日本では珍しいので、街中で乗っているとよく「かっこいい」と声を掛けられ、人が寄ってきます。足が不自由な人が乗っているという先入観はなくて、見慣れないすてきな乗り物に乗っているという感じで注目されます。そこに健常者と障がい者の壁はありません。

 私を見た子供が「あっちの方がいい」と親にせがんでいました。手こぎか足こぎかだけの差。ハンドサイクルは誰が乗ってもいい。公園でふつうに貸し出すようになれば、障がい者も健常者も一緒に楽しめます。そんな機会が増えることで、「かわいそうな人」という障がい者へのイメージは自然となくなるはずです。

 心肺機能など全身を鍛えるトレーニングの一環で多くのパラアスリートが使っていますが、足腰の弱くなった高齢者にもうってつけです。後輪が2輪で安定していますし、急坂を上らなければ脈拍も100前後を維持できますから適度な運動になります。電動アシストを付ければさらに楽になります。その意味では社会を変える手段になる可能性を秘めています。日本で生産すればコストも下がるはずです。

 最近は電動車いすも元自動車メーカーのデザイナーが製作したデザイン性の優れた商品が発売されています。機能性も優れていて、障害のない人でも「乗ってみたい」と感じる商品です。「障がい者のため」という発想ではとかく機能一辺倒に偏りがちですが、「かっこいいもの」という発想でスタートすると、違った広がりが出てきます。

 面白いもの、かっこいいものは、ターゲットの枠をこえて普及することがよくあります。そういう発想で手をつけられるものはまだたくさんあるはずです。それが新たな市場を生み、結果的にアクセシビリティーの改善と、共生社会を築くことにつながるのだと思います。(パラリンピック・アルペンスキー金メダリスト、日本パラリンピアンズ協会副会長)

 ◆大日方邦子(おびなた・くにこ)1972年(昭47)4月16日、東京生まれ。3歳の時に交通事故で右足切断。左足にも障害が残る。高2からチェアスキーを始め、パラリンピックは94年リレハンメル大会から5大会連続出場。98年長野大会で冬季大会日本人初の金メダルを獲得。メダル数通算10(金2、銀3、銅5)は冬季大会日本人最多。10年バンクーバー大会後に引退。