浦和DF那須大亮(34)が、豪快ヘッド一発で試合の流れを変えた。

 0-1の前半43分、柏木の右FKを、ファーサイドでのFWウェリントンとの競り合いを制し、頭で合わせた。

 Jトップクラスの空中戦の強さを誇る相手を、頭2つほども置き去りにして放った一撃は、GKの頭上を破ってゴール逆サイドに吸い込まれた。「きれいに当たって、ブレ気味の弾道になった」というほど、完璧にとらえたシュートだった。

 けものがほえるような勢いのガッツポーズは、苦しむ周囲も強く鼓舞した。同22分に、DF槙野がエリア内で福岡FW金森を倒し、退場になった。「得点機会阻止」が一発レッドの対象から外され、警告止まりとルールが変わった直後。微妙な判定だったが覆らず、チームは早い時間から数的不利を強いられた。

 それだけに、セットプレーからの那須の得点は貴重だった。福岡は屈指のエアバトラーを脅威に感じ、後半はセットプレーの際に徹底的にマークしてきた。

 同19分にはその状況を利用し、那須と反対のニアサイドで柏木のFKを受けたFW興梠が、反転しざまのシュートで決勝弾を決めた。柏木も興梠も「那須さんが決めていたからこその得点」と口をそろえた。

 今季は開幕直後から、出場機会が昨季に比べ激減。時にはベンチを外れることもあった。しかし、不満をあらわにすることはなかった。そして、遠征メンバーがいなくなった練習場で、スタッフを相手に精力的に個人練習を積んだ。

 守備時の身体の動かし方を念頭に置いたフィジカルメニューを「創作」し、特訓で滝のような汗を流した。やがて同じように出場機会に恵まれずにきた、DF加賀、橋本も那須の門をたたき、居残り練習をともにするようになった。

 不遇にあるベテランが、精力的に練習をする姿は、他の選手のよいお手本になってきた。第1ステージ終盤に3連敗するなど、悪い流れにあったチームがまとまりをかかなかったのは、那須の存在も大きかった。

 「でもやっぱり、今ここから見える景色というのは、決して気持ちのいいものじゃないですよ」。ある日の居残り練習後、那須はそうこぼしたこともあった。

 「でも、こういう練習ができるのはこういう時期しかない、と思ってやるしかない。いつも出場機会に恵まれて来た方ではないので、不遇との付き合い方は分かっているつもりです」

 春先ほどの好調さがないチームにあって、逆に那須の存在感は強まってきた。声を張り上げ、周囲を鼓舞するリーダーシップ。得点機が少ない時ほど生きる、セットプレーでの得点力。GK西川が「暑い中、長時間数的不利を強いられて、はっきり言って3連敗中の試合よりもはるかに厳しい戦いだった」という福岡戦で、そういった那須の持ち味がチームを救った。

 「自分がやってきたことが無駄ではなかったと証明できた。だからこそ、続けていかないといけないと思います」。勝負の時に備えて、黙々と刀を磨く。そんな武骨な九州男児が、第2ステージで巻き返しを狙う浦和の起爆剤になった。【塩畑大輔】