もののたとえではない。文字通り、視線がまったくブレなかった。

 6日午後。浦和のリオデジャネイロ五輪サッカー日本代表DF遠藤航(23)は、FW興梠とともに、埼玉県庁、さいたま市役所を表敬訪問した。

 上田清司知事、清水勇人市長の応接室を順番に訪れ、エールを受けた。遠藤は2人の話を聞く時、相手の目をしっかりと見据え、少しも目を離さなかった。

 にらみつけるような強い視線ではない。かといって、何となく目線をやっているような曖昧さもない。自然だが、しっかりと相手の目を見つめる。

 どんな時でもそうだ。遠藤は真っすぐなまなざしで、相手と向き合う。

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 昨年12月。湘南から浦和への移籍が決まる直前、遠藤はいつも記者に囲まれ「移籍か」「残留は」と質問攻めにされていた。

 交渉の最中でもある。コメントしにくい時期だけに、同じような立場の選手は多くが取材対応を避ける。しかし遠藤は、いつでも快く取材を受けた。

 その時も、質問者の目を真っすぐに見ていた。そして答えられる範囲内で、きちんとコメントを返す。

 そして「プレースタイルが合うか」「自分が成長できる環境か」と、何を大事に思って進路を決めているのか、考え方の「軸」もきちんと示した。

 後に取材メモを見返しても、言葉には1つの偽りもなかった。場当たり的なリアクションでもなく、突き詰めて考えた結果を話してもいた。

 だからこそ、目線はぶれなかったのだと思う。

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 昨季、レスターで奇跡のプレミアリーグ優勝に貢献した、日本代表FW岡崎のことも思い出す。

 昨年、4年ぶりにサッカー担当に復帰した直後。羽田空港国際線ターミナルで、帰国した岡崎を囲みで取材した。

 言葉の力強さもさることながら、途中から彼の「目」にくぎ付けになった。岡崎の瞳は、質問に答えだすとピタリと定まり、まったく動かなかった。

 「修羅場もくぐりました。重ねた経験とか自信とかは、4年前とは当然違うでしょう」。隣にいた所属事務所のマネジャーが、小さく何度もうなずいた。

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 記者は時に、答えにくい質問もする。相手の心の準備ができていないところに、取材のお願いをすることもある。

 自信がない時。考えが定まっていない時。仕方なく、事実と違うことを言わなくてはいけない時。言葉以上に揺らぐのは、視線だ。

 そうでなくても、相手の目をしっかりと見て話すアスリートや関係者は、とても少ないと感じる。だから、岡崎のブレない視線は、強く印象に残っている。

 昨季、得点が取れていないと言われようと、岡崎はスタイルを貫いた。前線を走り回り、守備にも身体を張って、奇跡のチームに不可欠なピースになった。

 世界中が奇跡の優勝を期待する重圧は、想像を絶するものだったと思う。五輪代表も、またしかりだ。普段その競技に興味を持たない層も、メダルを期待し、エールをおくる。

 遠藤は上田知事に問われ「少しプレッシャーはあります」と率直に答えた。しかし言葉とは裏腹に、視線はブレず、瞳に宿る光も力を失わなかった。

 本大会の重圧の中でも、きっと視線はブレないだろう。いくつかのポジションを任されるかもしれないが、高い集中力と読みの良さを生かしたカバリングなど、自分が求められるものを見失うこともないはずだ。

 どんな時も失わない冷静さも、周囲を落ち着かせるだろう。芯の強さは、必ずチームの支えになる。遠藤の目を見て、そう確信した。【塩畑大輔】