<アジア大会:競泳>◇第4日◇22日◇韓国・仁川

 競泳の萩野公介(20=東洋大)が3冠を達成した。男子200メートル個人メドレーを1分55秒34で制すと、約40分後の男子800メートルリレーにも出場。7分6秒74の大会新記録の金メダルに貢献した。21日の200メートル自由形では孫楊(中国)、朴泰桓(韓国)の五輪金メダリストを破って優勝。勢いを持続し、2日間で3冠を獲得した。この活躍で、賞金5万ドル(約550万円)が贈られるアジア大会MVPの有力候補に浮上。残り3種目もすべて金メダル&記録を狙う。

 悔しさは残さない。男子200メートル個人メドレー。フィニッシュした萩野は観客席に向けて左手を挙げたものの、表情は曇った。世界記録保持者ロクテ、五輪金メダル18個のフェルプス(ともに米国)に続く1分54秒台を狙っていた。「最初の50メートルのターンでタッチに失敗した」。結果は自身の日本記録に100分の1秒及ばない1分55秒34。金メダルも素直に喜べなかった。

 モヤモヤ感はあったが、懸命に切り替えた。約40分後には800メートルリレーが控える。前回10年広州大会で日本は中国に16連覇を阻止された。「中国には勝つ」と、個人種目以上の気合を込めて腕をかく。第2泳者で登場すると、体1つのリードをあっという間に体3つ以上に広げて、同年齢の瀬戸につなぐ。アンカー松田がトップでゴールした。

 競技2日目を終えて3冠の快進撃で、大きなご褒美も見えてきた。アジア大会最優秀選手に贈られる「サムスンMVP賞」。98年バンコク大会では陸上男子100メートルで10秒0を出して3冠の伊東浩司、02年釜山大会では200メートル平泳ぎを世界記録で制した北島康介が獲得した。MVPにはアマチュアとしては異例の高額賞金約550万円が大会スポンサーのサムスン電子から贈られる。「もらえたらラッキー。賞金は貯金します」と笑顔を見せた。

 男子種目は6種目を終えて、日本勢が金メダルを独占する。ロンドン五輪では戦後最多11個のメダルを得たが、金メダルはなし。以来、日本水泳界は、08年北京五輪の北島に次ぐ金メダルが悲願になった。日本代表の平井伯昌監督は「勝つべく選手が勝つと、チームに勢いが出る」と2年後のリオデジャネイロ五輪に手ごたえをつかむ。萩野の活躍が、相乗効果となって、チームを引き上げている。

 残りは3種目。今日23日は2人の金メダリストと再び対決する400メートル自由形、明日24日は本命の400メートル個人メドレー、25日は200メートル背泳ぎがある。「精いっぱい、自分の泳ぎをして、すべて金を狙う」。小学4年のアテネ五輪でマイケル・フェルプスの6冠をテレビで見て、複数種目で活躍する選手にあこがれ、背中を追ってきた。日本初のマルチスイマーの真骨頂はこれからだ。【田口潤】

 ◆萩野公介(はぎの・こうすけ)1994年(平6)8月15日生まれ、栃木・小山市出身。羽川西小1年夏に、名古屋市・御器所(ごきそ)小へ転校。東海イトマン鯱(しゃち)で頭角を現し、3年春に小山市へ戻ると宇都宮市の御幸ケ原SS入り。作新学院中-作新学院高。高3の12年ロンドン五輪では400メートル個人メドレーで銅。日本選手権は13年に5冠、今年は4冠。177センチ、71キロ。家族は父洋一さん、母貴子さん。

 ◆アジア大会MVP(サムスンMVP賞)

 韓国の大手企業、サムスン電子を後援に98年バンコク大会から創設。MVP候補選手は大会運営委員会が推薦し、国内外の記者の投票で選出する。賞金5万ドル(約550万円)のほか、トロフィーとサムスン電子の新製品が贈られる。98年は陸上の伊東浩司、02年は競泳の北島康介、06年は競泳の朴泰桓(韓国)、10年はバドミントンの林丹(中国)が受賞している。