前回覇者・早大の渡辺康幸監督(38)が、「先手逃げ」の奇襲作戦に打って出た。新年1月2、3日に行われる第88回東京箱根間往復大学駅伝(箱根駅伝)の区間エントリーが29日に発表され、早大はエース大迫傑(すぐる=2年)を昨年に続き1区起用。前回のロケットスタートを再現し、「山の神」柏原擁する東洋大、スピードランナーをそろえる駒大の2強崩しに挑む。各校ともに当日のメンバー変更を踏まえて有力選手を「補欠」に仮置きするなど、早くも監督たちによる心理戦が始まった。

 今季無冠で背水の陣、早大・渡辺監督が打った一手は「先手逃げ」だった。チームの大黒柱・大迫をエース区間の2区でなく、1区に再び持ってきた。

 エントリーメンバーの発表後、都内の関東学連の事務所で行われた監督会議。渡辺監督は笑顔で建物に入っていったが、終了後はこつぜんと会場から姿を消し、その後は音信不通に。日ごろはユーモアにあふれ、親しみやすい人柄だが、勝負にかける意気込みが、隠密行動となって出た。

 大迫と言えば、前回1区で衝撃的な箱根デビューを飾った。序盤から積極的に飛び出し、さっそうと21・4キロをかけ抜けた。2位の日大・堂本に54秒差。さらに3位駒大に1分53秒、覇権を争った8位東洋大に2分1秒という大差をつけ、早大を18年ぶりの総合優勝に導いた立役者だ。今夏は世界ユニバの1万メートルに出場し、金メダルも獲得した。

 その大迫のロケットスタートで、はずみをつけての大逃げだ。往路は2区から4区まで実績あるベテランで固め、5区の山登りには1年生ながら馬力ある山本を起用した。大迫のロケットスタートで勢いをつけ、往路4連覇を狙う東洋大、そして柏原に対抗する。まさにライバルたちへの「果たし状」だ。東洋大・酒井監督は「びびったら負け。序盤から食らいつく」と言い、駒大・大八木監督は「そういう作戦(先手逃げ)で行かないと、早大はきついだろう」。奇襲をかけられた側も、真っ向から受けて立つ構えだ。

 29日夜になって、渡辺監督は代表取材に「うちは3番手なので、奇襲の意味で大迫1区をやりたかった。ノルマはない、自分のペースで行かせる」との声明を発表した。策士となった同監督は、加えて主力の八木、大串(4年)、志方(2年)を補欠に回し、レース当日に新たな一手も打つ。出雲、全日本とも3位に終わり「2強+1」と言われる大会で、王者が牙をむいた。【佐藤隆志】