トラックの女王だった福士加代子(33=ワコール)が、リオデジャネイロ五輪代表を当確にした。日本歴代7位となる2時間22分17秒で独走優勝。日本陸連の五輪派遣設定記録2時間22分30秒を突破し、過去3大会はトラック種目で出場してきた実力者が、悲願だったマラソンでの五輪出場をほぼ手中に収めた。「リオ、決定だべえ~」と絶叫した福士は、本番での目標を金メダル獲得に設定。出場すれば陸上日本女子初の4大会連続五輪となる。

 福士の耳に、永山監督の絶叫が飛び込んだ。ゴールまでラスト600メートル、さらに会場直前で「5秒足りない!」。独走優勝は確実だったが「監督に、あと5秒と言われて必死でダッシュした」。五輪派遣に日本陸連が設定した記録は2時間22分30秒。実は突破できるペースだったが「サバをよんだ」という監督の声に乗せられて激走した。

 必死の形相でテープを切ると、反転してタイムを確認。8度目のマラソンで自己記録を2分以上更新する、日本歴代7位となる2時間22分17秒だった。2時間22分30秒を切るのは、07年東京の野口みずき(2時間21分37秒)以来9年ぶり。お立ち台では「1等賞、うれしー、本当にうれしー。リオ、決定だべえー」と、自分で“五輪決定”を告知するほど喜んだ。

 2時間20分台の高速ペースに1人だけついた。25キロで両足の裏が痛くなったが「いいや、折れちゃえ」と骨折さえ覚悟した。30キロ以降は1人旅。「最後の最後まで不安。いけ、いけ、お願いと自分に言って走った」。ドーピング違反者による繰り上げで初優勝となった3年前とは違う頂点だった。

 右足小指には約5センチのボルトが入る。昨春に右足甲を2度骨折して手術。昨年8月に伊藤舞が五輪第1号に内定した際は、1年で3度目の骨折となった左足甲のリハビリ中だった。マラソンでの五輪挑戦3度目で結果を出し「何度も失敗していた。1等賞が取れて良かった」は本音だった。

 14年3月、青森。「リオ目指す。やるからには金を取りに行く」。五所川原工高時代からの親友、瀬川麻衣子さん(34)に誓った。瀬川さんの父の告別式に京都から駆けつけた。3日間、一緒に泣いて寄り添い決意した。「今回の大阪がダメだったら最後」と言われて大阪に駆けつけた瀬川さんは「笑顔が見られた」と喜んだ。

 選考会は3月の名古屋ウィメンズが残るが、福士のリオ切符は確実。五輪での目標を聞かれると「金メダルです」。野口が金メダルを獲得した04年アテネ大会後は、日本女子に入賞者さえいない。福士は日本選手権1万メートルで7度優勝するなど過去3度の五輪はトラックで勝負した。日本主流の粘るスタイルではなく、スピードがある。アフリカ勢中心に高速化が進むマラソンで五輪4大会連続出場を果たし、目指すは世界一しかない。【益田一弘】

 ◆福士加代子(ふくし・かよこ)1982年(昭57)3月25日、青森・板柳町生まれ。五所川原工高で陸上を始める。00年ワコール(京都)に入社。トラック種目で04年アテネから3大会連続五輪出場。13年世界選手権モスクワ大会はマラソン銅メダル。160センチ、45キロ。