ロンドン五輪を来年に控え、世界選手権(8月、韓国・大邱)が開催される今季は日本陸上界にとって、大きなシーズンとなる。8日のセイコー・ゴールデングランプリ川崎(神奈川・等々力)をステップに、世界に挑んでいく各種目の精鋭たち。04年アテネ五輪ハンマー投げの金メダリスト室伏広治(36=ミズノ)は、新たな手法で世界のてっぺんを目指している。年齢を重ねてなお進化し続ける男の、今をクローズアップした。

 鍛え抜かれた肉体美、豪快なイメージばかりが強い室伏だが、緻密で正確な投てきがテーマだ。トップアスリートでありながら、もう1つの顔は中京大スポーツ科学部の准教授。「僕自身が実験台」と言ってはばからない。理論的かつ、科学的なアプローチで世界の頂点を目指す-。それが現在の取り組み方だ。

 室伏は言う。「筋力を鍛えるだけでは遠くへ投げられないし、海外選手との差も埋められない」。北京五輪後、新たな手法を探った。09年秋、米アリゾナ州のアスリートパフォーマンス社で理学療法士のロバート・オオハシ氏と知り合った。「僕しか分からないと思っていたところまで分かるんだ、という驚きがあった」。その考え方は、基礎的な運動機能を改善することで、競技力も飛躍的にアップするというものだった。

 競技力のピラミッドは3つの構成から成り立つという。底辺にあるのが「ファンダメンタル」、その上に「ストレングス」、そして「技」。ファンダメンタルとはしゃがんだり、立ち上がったりする日常の運動であり、ストレングスとは投げる力、走る力といった筋力面のこと。室伏は「ハンマーの技術的な問題かと思っていたら、実は体の問題だった。だから正常な運動ができるようになれば、自然にできる」と言う。オオハシ氏の指導のもと冬場は体幹トレーニングに励んだ。「サークルを並進していくのが、よりスムーズになった」と手応えを実感する。

 今季初戦となる川崎大会に向け、「いい感触でコンスタントに投げられたらいいなと思う。大きなピークは世界選手権ですから」。泰然自若とした姿。10月で37歳を迎える男の進化は止まらない。【佐藤隆志】