市民ランナー川内優輝(25=埼玉県庁)のロンドン切符は首の皮一枚つながった。五輪男子代表の最終選考レース、びわ湖毎日マラソンは4日、日本人トップに一般参加の山本亮(27=佐川急便)が入る予想外の結末となった。川内は同日、都内で行われた友人の結婚式に出席。電話取材に対し「7分台が1人は出ると思っていたので残念」などと感想を語った。五輪切符は藤原新(30=東京陸協)、山本が当確となり、川内の状況は厳しい。それでも残された3番目のいすへ、可能性はまだある。

 誕生日前日、24歳最後の日。川内は都内で友人の結婚式に出席していた。式の最中も、携帯電話でレース速報をチェック。日本人トップの山本が2時間8分44秒で4位、中本は2時間8分53秒の5位という結果を受け、まるで人ごとのように話した。

 川内

 7分台が1人くらい出ると思っていたので残念。ただ8分台、9分台が結構出ているし、(初マラソンの)出岐君も10分。みなさんの可能性が感じられたレースだと思います。

 本命視された堀端が終盤の失速で、まさかの11位。ライバルが消え、これで川内は生き残ったのか?

 希望的な観測もできる状況だが、そこは打ち消した。

 川内

 僕が選ばれるというのであれば、堀端君の方が選ばれると思います。プレッシャーのかかる状況で2時間10分で走った。僕は(東京で)12分かかっている。世界陸上での実績(7位)もあるし、僕はないのではないか。

 川内を取り巻く状況は厳しい。12月の福岡で日本人トップながら記録は2時間9分57秒。選考のキーパーソン、日本陸連の河野匡強化副委員長は「気象条件など異なり、横並びで4レースを比較することはできない」と言いつつも、福岡について「過去の選考レースからしても10分切りというのは低い。メンバーからしても7分台、8分台という期待があった」と話した。一方この日のびわ湖は冷たい雨の中で8分台が2人、9分台も3人。「中本にしても自己記録をマークし、素晴らしかった」(河野強化副委員長)。2席は東京の藤原、びわ湖の山本でほぼ決まり。タイムを考慮すれば、3席目には中本が入るとの見方ができる。

 ただ河野強化副委員長は「オリンピックに選ばれるための選考でなく、オリンピックで戦うための選考をする」と言い、川内に関して「彼はいろんなコメントを出している。選考していく過程の中で1つ1つ、その背景を見ながら判断していく」とも明かした。要するに日本陸連が提唱する「世界で戦える選手」に合致するのか-。そこがポイントになる。川内は昨年2月の東京を皮切りに、10月大阪、12月福岡、防府と国内4レースは日本人トップ。先月の東京こそ失敗したが、安定感は群を抜く。加えて終盤の粘り強さ。その点をどう評価されるかで状況は変わる。

 運命の12日。日本陸連の理事会を経て、都内で男女代表各3選手が発表される。当落線上をさまよう川内に、ロンドンへの道は照らされるのか。泣いても笑ってもあと1週間、市民ランナーの星が審判の時を迎える。【佐藤隆志】<過去の混乱選考>

 ◆はってでも

 88年ソウル五輪男子代表をかけ、87年12月福岡国際が一発選考会とされたが瀬古利彦が故障欠場。中山竹通は「はってでも出てこい」というニュアンスの発言で波紋を呼ぶ。日本陸連の配慮で3月のびわ湖が選考会とされ、瀬古は優勝して代表に。

 ◆アピール会見

 92年バルセロナ五輪女子代表争いは世界陸上4位の有森裕子と、大阪国際で有森のタイムを上回る2時間27分2秒を出した松野明美との争いに。松野は異例の記者会見で「私を代表に選んでください」とアピール。結局、有森が選ばれ銀メダル。

 ◆早期内定に疑問

 00年シドニー五輪女子代表争いは、前年世界選手権で市橋有里が2時間27分2秒の銀メダルで内定。だが11月東京で山口衛里が優勝、1月大阪国際で弘山晴美が2位、3月名古屋国際で高橋尚子が優勝。選考レース3つで2時間22分台の好タイムが連発された。最後は弘山が涙をのみ、早期内定に批判の声も。