マラソン男子五輪代表の藤原新(30=東京陸協)が、市民ランナーの星・川内優輝(25=埼玉県庁)とロンドン五輪に向けて強力タッグを組んだ。3月31日、埼玉県内の荒川土手で合同トレーニングを公開。強風が吹き荒れる中、いきなりレースさながらの「ガチンコ」を展開した。藤原が「これからも『藤原・川内シリーズ』でやっていく」と言えば、川内も「夏まではオリンピックがメーン。何か役に立つことがあれば」と同調。ロンドンの表彰台へ、マラソン界の異端児ががっちり手を取り合った。

 まるで荒野の西部劇をほうふつさせる光景だった。ロンドン切符を争った藤原と川内が、強風が吹き荒れる荒川土手に並び立った。自然の演出もあり、練習なのに決闘モード。片道3キロを2往復する12キロの「果たし合い」に飛び出した。

 強風という最悪の条件にもかかわらず、1キロ3分ペース。藤原が積極的に引っ張れば、川内も負けじと食らいつき前へ出る。最後はラストスパートまで仕掛けた。ゴールへ並ぶように駆け込むと、川内は「キチー(きつい)!」と表情をゆがめた。そしてハイタッチで健闘をたたえ合う。自転車で並走したスタッフは「人間じゃない。こんなひどい風でよく走れるよ」。練習から本番さながらの負荷をかける-。これぞ、藤原の求めるものだった。

 藤原

 川内君は威圧感がすごく、微妙なペース変動がうまい。相手にすごいダメージを与えるし、これが彼の競り合いの強さです。

 一方の市民ランナーの星は、満足そうな笑みを浮かべ、表情は緩みっぱなし。

 川内

 最初に練習メニューが1キロ3分と聞いて、「レースだな」と思った。かなりしんどかった。

 3月12日の代表発表後、藤原の方から誘った。「スポーツ新聞を読んで一緒に練習してくれることを知った。彼から言い出しづらいだろうし、僕からメールで『一緒にどう?』と送った。そしたら『ぜひ、ぜひ』と返ってきた」。プライベートな付き合いはない。むしろ対抗心から東京マラソン前には、プロレスまがいの舌戦さえ繰り広げた。それがライバル関係を超越し、「マラソン界の異端児」として結びついた。1週間後の20日には初練習を済ませ、この日は五輪への所信表明とばかりに公開した。

 藤原

 アグレッシブに戦う姿勢など、学ぶべき点が多い。これからも「藤原・川内シリーズ」でやっていく。仲良しじゃないですよ。彼は強烈な後輩です。

 川内

 藤原さんは僕の考え方を変える刺激的な先輩です。夏まではオリンピックがメーン。何か役に立つことがあればやりたい。

 自然を愛する者同士。今後は秩父山系に入り、リュックを背負って野山を走るトレイルランなど、あの手この手で切磋琢磨(せっさたくま)する。ロンドンの表彰台を目指し、荒野から異色の雑草コンビが誕生した。【佐藤隆志】