今年のラグビー日本選手権は熱かった。1月29日、秩父宮。決勝のスタンドは超満員だった。

 日本一を決める試合に出てきたのは、昨季トップリーグ9位から再び「ハードワーク」の文字を掲げ全勝優勝したサントリーと、前年度日本選手権覇者のパナソニックだった。どちらのチームも選手は粒揃いで歴史ある強豪だ。

日本一に輝いたサントリーフィフティーン
日本一に輝いたサントリーフィフティーン

 準決勝では、大学選手権で8連覇を成し遂げた帝京大と、サントリーが対戦。スコアは54-29。サントリーの白星。今季から就任した沢木敬介監督が「選手の自主性が変化した。やらされる練習ではなく、考える力がつき自らやる練習になった」というようにチームは成長していた。大学では敵なしの帝京大も前半はいい試合をしたものの、最後は力尽きた。

 もう1つの準決勝、パナソニックとヤマハ発動機の試合は、前半にヤマハのミスが重なったこともあり、持ち味であるターンオーバーからの速攻を生かしたパナソニックが勝利した。


 決勝の開始直前、秩父宮が不思議な空気に包まれていた。まさに、長いシーズンを戦う戦い方ではなく、お互いがこの1試合にすべてを懸けていることが感じられる、張り詰めた空気だった。

 選手全員でボールを運び、タフなラグビーをするサントリーと、1人1人の能力を最大限に生かすパナソニック。この異なるスタイルの2チームがぶつかり合う試合はいつもラグビーファンを魅了する。

 確実にいい試合になるとの予感があった。


 前半終了の時点で、3-3と互角の戦いだった。あとは消耗具合から選手たちの体力と選手交代のタイミングが勝負の分かれ目だろうと感じた。

 「予想していた試合展開ではなかった」と流キャプテンがいうように、サントリーのトライはゼロ。パナソニックは1トライを挙げた。

 しかし、結果は15-10でサントリーの勝利。

 「全員でディフェンスをするように心がけた」。ノートライではあったものの、サントリーの「ハードワークアゲイン」が24歳の流大キャプテンのもと新たなチームを作りだした。


 スポーツには必ず勝ち負けが存在する。

 私は、ラグビーの選手や監督たちの相手チームをまず尊重するところが魅力的だと感じる。

 負けたチームも勝ったチームも「サントリーさんのような素晴らしいチームと戦えたことをまずは感謝したい」「パナソニックさんのような、いい選手が数多くいるチームと戦えた」。このように、たたえ合うのだ。

 ラグビーはレフェリーにより試合運びが大きく変化していく競技。この一戦では「レフェリーの判断と選手たちの判断が異なった」と両チームとも話していたが、「そこには文句はない。言われた中で結果を残す」。こんな姿勢が、感動に輪をかける要素になる。

 ここまでタフな試合を重ねてきた選手たち。この後はオフシーズンに入る選手、スーパーラグビーに参戦する選手など、それぞれだ。共通して言えるのは、どの選手もラグビーを心から大切に思っていること。

 私たちサポーターも、ラグビー精神から学ぶことは数多くある。

【伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表】