紙面に「野球の国から」というフリースペースの欄がある。年明けからWBCをテーマにあれこれ書いている。先週は「経験者は語る ~かく戦え~」の5回連載だった。過去の大会でコーチを務め、かつ今、現場の最前線で指導をしている方に聞いた。

 「知見が侍ジャパンへのヒントや後押しになれば」とお願いした。会心も痛恨も、皆さんの心に深く残っていた。有効だった戦い方、失敗の分析と教訓。どれも実際に起こった事だから説得力があった。

 第2回大会で総合コーチを務めたロッテ伊東勤監督(54)の語りが忘れられない。1月16日の昼下がり、東京ドーム近くの喫茶店で待ち合わせた。野球殿堂入りが発表される直前というハレの日に時間をつくってもらった。名刺を切ってアイスコーヒーを頼んだ。

 勝負の神髄をよく理解していた。押され気味の1時間をテープに起こすと10003文字、400字詰め原稿用紙で25枚になった。私の通常の取材は、30分の取材をテープ起こしすると3000文字ほどになる。相当のペースで語ってくれたことになる。

 「国単位で野球を学ぶキューバは、全員が踏み込んで打ってくる」「内角のボールゾーンから曲げ、かつ内角に収める横軌道のスライダーが特に有効」「キャッチャーは、自分の感性を何より大切にしなければいけない」「事前に描いた青写真を、いかに臨機応変に崩していけるか」…。生きた指摘があった。

 胆力という言葉が適切と思う。何があっても動じない心の持ちようが印象に残った。紙面は具体策を中心にまとめたので、胸中を伝えきれなかった。割愛してお蔵入りは惜しいので紹介する。

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 看板選手を預かるので、選手への気遣いは必要になってくるのは分かる。けど根本はやっぱり、日の丸を背負って戦うということ。頭のど真ん中に置いてやった方がいい。「俺たちは勝つために集まった」と、考えを変えないといけない。各チーム、協力態勢は作ってくれている。「日本のために」という思いを最優先に持ってきた方がいい。

 例えば「このピッチャーなら確実に抑えられる」という存在がいるにも関わらず、続投で打たれる。絶対にあってはならない。待ちは愚で、自分で「こう」と決めたら仮に失敗したとしても積極的に動き、貫き通した方がいい。ベンチがバタバタしているのは選手が一番、分かる。「この人、なんか自分がないな」と思われたら、なめられる。不安めいた気持ちを外に発信しないことが一番だと思う。原監督を見ていて強く感じたことだ。

 そりゃ誰だって、結果が出なかったら確かに怖い。「何やってんだ」って。それでもね、自分がやったことに対しては、結果が出なくとも満足しないといけない。だって、うまくいくわけがないんだから。だから勝負は面白い。相手があって、思った通りにいかないから面白い。

 東京五輪に野球が入ってくる中で、日本中で注目される試合。見ている人に「中途半端にやっている」と感じられたら困る。東京ドームの2次ラウンド最終戦に勝って、準決勝1位通過が決まった時、イチローが「普通にしときましょう。喜ばずに」と言った。(第1回大会で)マウンドに旗を刺された時、あったじゃない。あれが、脳裏に焼き付いていたのではないか。

 アイツの中で「韓国にだけは負けられない。日本は絶対に勝つ」という、屈辱からくる決意があった。日本の野球は勝つことが宿命づけられているので、勝利に対して思い切ってやることが必要。一本、芯が通ったスタイルでやってもらいたい。

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 「具体策を」と求めてスタートし、心の持ちようで終わる。最後に向かって言葉に力がこもる。この流れは、伊東監督に限った話ではなかった。技術だけで国際試合は勝てない。

 結びの語りはどうしても割愛できず、紙面に掲載した。そのまま転載する。

 最高峰の舞台で戦えるのは幸せなことだ。ギリギリの勝負でしか味わえないあの感覚は、野球人としてこの上ない財産になる。僕自身、機会があればもう1回、日の丸を背負いたい夢がある。小久保監督も世間の目など一切気にせず、決めた事を思い切って遂行して欲しい。【宮下敬至】