<高校ラグビー:流通経大柏13-10東京>◇30日◇2回戦◇花園

 Bシードの流通経大柏(千葉)が、東京(東京第2)を破った。2度もリードを許し、勝ち越した終盤も一方的に攻め立てられる苦しい展開を、主将のFB中田世(せい=3年)を中心とした統率の取れた守備で乗り切った。頭蓋骨骨折の大けがを乗り越えた「柏の頭脳」が、同校初の4強進出へ向けてチームを引っ張る。

 逆境を乗り越えた男が、自軍を逆境から救った。3点リードの後半終了間際。最後方の中田は、モールで一方的に押し込まれる味方に向け、声をからし続けた。懸命の指示を受け、チームメートが次々と守備網の「穴」を埋め、ついにノーサイドの笛を聞く。「最後までまとまりがあった。FWもBKも一緒に戦えた」。一丸の勝利を、主将は圧勝した試合の後のように、誇らしげに振り返った。

 花園でプレーできるのは、奇跡と言ってもいい。昨年9月、自転車で登校中にトラックにはねられた。頭蓋骨骨折、くも膜下出血の重傷。命こそ取り留めたが、1カ月半の入院生活を強いられた。「最初の2週間は寝たきりでした。脳脊髄液が漏れてきているので、起きてはいけないとお医者さんに言われて。1カ月でようやく立ち上がれました」と言う。

 リハビリを重ね、ようやく部活に復帰しても「2カ月くらいは体が重くて動けなかった」。負傷したのが頭だけに、当然接触プレーへの恐怖も募る。中田の他にもケガで主力を欠いたチームは、今年2月の関東新人大会で国学院久我山に0-39、日川に0-52と大敗。苦悩のスパイラルにはまった主将を立ち直らせたのは、松井監督の一言だった。「むしろ率先して接触プレーの練習をやれ」。

 主将として、怖くてもやるしかない。吹っ切れた中田は、5月の関東ラグビー千葉大会で、途中交代ながら復帰を果たした。チームも勢いづき、翌月の関東大会で日川に19-15でリベンジ。全国で上位を目指せる態勢が整った。

 幼少時は兄の廉と野球に夢中だった。「僕だけ友達の誘いで、中学からラグビーです」。兄は投手として名門広陵高(広島)で甲子園に出場、08年にドラフト2位で広島に入団した。事故後は病院に駆けつけ、懸命に励ましてくれた大好きな兄に続けとばかり、中田がチームを引っ張って全国大会を沸かせる。【塩畑大輔】