<柔道:全日本選抜体重別>◇最終日◇12日◇福岡国際センター

 異端の柔道家が初の世界切符をつかんだ。男子100キロ超級決勝で、七戸龍(24=九州電力)が合わせ技の一本勝ちでロンドン五輪代表の上川大樹(23)を下し、2連覇を果たした。空手の日本王者の父を持ち、超級では珍しい逆三角形のアスリート体形のイケメン。初出場となる世界選手権(8月、リオデジャネイロ)で、低迷続く重量級の救世主となる。

 前へ、前へ。決勝の畳の上には、強気の七戸がいた。「全日本では慎重になりすぎた。前に出た方が強いと気付かされた」。2週間前の全日本柔道選手権では、3回戦でベテラン棟田に敗れた。巧みな組み手に手を焼き、全く攻められず。苦杯をなめ、原点を痛感した。「前へ出なくては」。

 上川に指導1を先行されたが、左小外掛けで有効を奪うと勢いに乗る。足が出る。3分55秒に右内股をさく裂させて技あり。そのままけさ固めで抑え込んで、2年連続の頂点。昨年は世界ランクが低く、五輪代表の資格外。同じ優勝でも、今年は違う。初の世界切符に「勝ったり負けたりではなく、常に勝ち続けたい」とつながる先をみた。

 原点は「攻め」にある。沖縄在住の父康博さんは「本部の怪物」と呼ばれた極真空手の師範。ウエイト制全日本重量級を幾度も制し、いまは全日本極真連合会副理事長に就く。七戸も中学までは空手と柔道の両方を学んでいた。極真空手ではとにかく攻めなければ勝てない。今大会でその精神に立ち返った。

 身長185センチの父からは体形も受け継いだ。193センチ、118キロの肉体は筋骨隆々。「くびれがある」と、ウエスト回りに脂肪は皆無で、帯の長さは主に90キロ級の選手が使う4号(2メートル85センチ)を使う。“ボン、キュッ、ボン”体形で、九州電力の江上監督によれば「走るのも軽量級の選手より速い」。鍛え上げた胸筋、上腕二頭筋が分厚く、尻回りが太くなるのにつれ、大会での結果もついてきた。

 母ベラさんはベルギー人で、目鼻立ちのはっきりしたイケメン顔でモデル勧誘経験もある大器。福岡大進学のため沖縄を離れる際に父と約束したのは「24歳までに日本一になれ」。23、24歳と2年連続で実現し、次の狙いは世界一。「一本を取って終わらせる柔道を目指したい」。極真空手の理想「一撃必殺」の心構えで、前へ前へと進む。【阿部健吾】

 ◆七戸龍(しちのへ・りゅう)1988年(昭63)10月14日、沖縄県生まれ。空手と並行して7歳で競技を始めたが、上山中に空手部がなく柔道一本に絞る。那覇西高から福岡大に進み、11年に九州電力に就職。国際大会では11年東アジア選手権優勝、12年グランドスラム・東京3位、今年2月のグランドスラム・パリ3位など。「龍」の由来は空手の創始者大山倍達が強さのイメージを表した「龍虎」からで、弟の虎は100キロ級の選手。双子の2人の妹もおり、その1人の美空はウエートリフティングの国内トップ選手。得意は大内刈り。右組み。193センチ、118キロ。