【上海(中国)29日=阿部健吾】ソチ五輪金メダリストの羽生結弦(20=ANA)が異例の「再演」を誓った。銀メダルを獲得した世界選手権の会場で行われたエキシビションに参加。ショートプログラム(SP)がショパン「バラード第1番」、フリーは「オペラ座の怪人」を演じたが、度重なるケガの影響で難易度を落とさざるを得なかった。思い入れのあるプログラムへの心残りに、「いつかまたやりたい」と口にした。

 苦難のシーズンで、踊り続けたプログラムのことを聞かれた時だった。羽生は内に秘めた思いを明かした。「(来季の)可能性はいまのところは少ないかなと思うんですけど、いつかまたやりたい」。2季連続ではなく、あえて「いつか」。あまり前例がない、時間を置いてからの再挑戦に意欲をみせた。

 どちらも思い入れたっぷりの演目だった。SPは、挑戦したことがなかったクラシックのピアノ曲。五輪王者で迎える新シーズンに新境地を開くため、リクエストした。3拍子で強弱を付けた滑りが難解だったが、向上心をうずかせた。

 フリーは本来はソチ五輪シーズンで使用したかった「オペラ座の怪人」。王道すぎて振付師の同意が得られずに断念したが、ボーカル曲が解禁された今季、満を持して投入した。もともとミュージカル曲を滑るのは得意で、自分に合う自信もあったのだろう。

 ところが、11月の中国杯の激突事故に始まり、昨年末には腹部の手術、1月末には右足首の重度の捻挫を負った。シーズンを通し、体調に合わせてレベルを落とすしかなかった。もともと4回転をSPでは後半に、フリーでは3本を組み込む高難度の演目だったが、「このコンディションで何ができるかを常に考えて、考えて」過ごさないといけなかった。

 「宿題ですね」。完成形を滑りきれば、どちらも間違いなく世界最高点が出る。その潜在力を知り、こだわりがあるからこそ、これで終わりにできない。実際、初の世界選手権で3位となりメダルを獲得した11~12年シーズンのフリー「ロミオとジュリエット」を、ソチ五輪シーズンに再び使用。演技構成のレベルを上げた内容で、金メダルをつかみ取った経験がある。

 「(後半の4回転には)挑戦したい。楽しみにしながら頑張りたい。今季の経験を踏まえて、また1歩進化できるのではないかな」。もしかしたら、18年平昌五輪シーズンに再演なんてことがあるかもしれない。