女子200メートル平泳ぎで金藤理絵(27=Jaked)が、世界新と金メダルを視界に捉えた。自らの日本記録を0秒39更新する2分19秒65で優勝。08年北京以来2大会ぶりの五輪を決めた。世界歴代5位、世界記録まで0秒54に迫って集大成のリオでダブル快挙を狙う。

 大歓声が耳に入った。日本記録を上回るペースで折り返した残り50メートル。金藤は「声援の意味が日本記録ぎりぎりなのか、余裕があるのか、わからなくて。(記録が出ず)あーとなったら申し訳ない」。後続に大差をつけていたが、全力で泳ぎ切った。世界記録も狙える日本新。「多くの人に応援してもらえて幸せだな」とお立ち台で感極まった。

 勝利への執念が足りない-。それが長く課題だった。12年ロンドン五輪を逃して毎年、引退を考えたが、加藤コーチに説得されて、続けてきた。加藤コーチは「心理的競技能力検査をすると、勝利意欲が断トツに低い。『なんで勝とうとしない』と言うと逃げるタイプ」だった。だが昨年世界選手権で惨敗し「恥ずかしい、情けないレースを最後のレースにしたくない」と自ら現役続行を申し出た。

 意識改革が始まった。東海大大学院ではラグビー日本代表のリーチ・マイケルと同級生。昨年9月の南アフリカ戦での大金星に触発された。加藤コーチからも半年間かけて「勝つことは素晴らしい」と何度も言われて、少しずつ変わった。

 女子サッカーのレジェンド澤穂希さんに似ている、と言われる。東海大の授業で澤さんが題材になった際は、自分でも「やばいぐらい似ているな」と思ったという。「『澤さんと似ている人が水泳界にいるらしいよ』と見てもらって『この人もすごいじゃん』と言われたい。澤選手の名前に負けないように、頑張る」。

 決勝直前、家族や仲間の姿をスタンドで見つけて涙が出た。ロンドンを逃した4年前は応援団を見て「負けたらどうしよう」と不安になったが、今回は違った。「素直に私、幸せだなと思えた。8年間長かった。五輪でもありのままの自分で世界新を狙って頑張りたい」。27歳になった「水泳界の澤」が、集大成のリオでその名を世界にとどろかせる。【益田一弘】

 ◆金藤理絵(かねとう・りえ)1988年(昭63)9月8日、広島県庄原市生まれ。三次高3年で総体優勝。07年4月に東海大進学。08年北京五輪女子200メートル平泳ぎで7位入賞。09年には同種目で3度日本記録をマーク。12年ロンドン五輪は出場権を逃す。13年世界選手権4位、15年同6位。2月の3カ国対抗戦女子200メートル平泳ぎで2分20秒04と、7年ぶりに自らの日本記録を更新。175センチ、64キロ。

 ◆競泳の五輪代表選考 個人種目は日本選手権の決勝で、日本水連が定める派遣標準記録を突破して2位以内に入れば代表に決まる。ただし女子200メートル平泳ぎは渡部が昨年の世界選手権を制して既に代表に決まっており、残りは1枠となっていた。100メートル種目の優勝者はリレー代表の選考対象になる。