プレーバック日刊スポーツ! 過去の8月20日付紙面を振り返ります。2004年の終面(東京版)はアーチェリーの山本博がアテネ五輪で銀メダル獲得でした。

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<アテネ五輪:アーチェリー>◇2004年8月20日◇男子個人

 お父さんはやったぞ! アーチェリーの男子個人で、41歳の山本博(大宮開成高教諭)が銀メダルを獲得した。世界王者、世界2位を次々と破る快進撃で、ティム・カディヒー(17=オーストラリア)との準決勝では五輪タイ記録もマーク。決勝で21歳のマルコ・ガリアッツォ(イタリア)には敗れたものの、一人息子の純太郎君(12)の写真に見守られ、初出場で3位になった84年ロサンゼルス大会以来、20年ぶりにメダルを手にした。

 真っ黒に日焼けした顔から、白い歯がこぼれた。20年ぶりに立った表彰台。金メダリストはロス五輪の自分と同じ21歳、銅メダリストはさらに若い17歳。2人の若者と同じ台の上で、41歳の「オヤジ」は、両手を挙げて笑顔を見せた。「びっくりした。年取ったせいか、最後までメダルは意識しなかった」と話した。

 2回戦で昨年の世界選手権覇者フランジリを破り、準々決勝では同2位の林を退けた。体力ではかなわないが、精神力で負けなかった。カディヒーとの準決勝は両者とも五輪タイの115-115で延長に突入。1本目を的のど真ん中に決めた。「5回目の五輪。五輪を知った上で自分をコントロールして勝てた」。決勝は「相手の方が上だったから仕方ない」。それでも、大理石のパナシナイコ競技場で夢を射抜いた。

 「オヤジ、アテネに到着!」。8日にギリシャ入りした日、そう言って笑わせた。大学生で手にした84年の銅メダルを「若さと勢いだけ。五輪を何も知らなかった」と振り返る。今回は日本選手団で2番目の年長者。余分な力みもなければ、気負いもない。不惑を超えたオヤジの渋み。「メダルの意味は前回と全然違うよねぇ~」。感覚と精神力が勝負のアーチェリーで図太い総合力を身につけた。

 スコープの部分には長男純太郎君の写真を張っていた。矢を放つ前、じっと見ながら心を落ち着けた。00年シドニー五輪は選考会でまさかの落選を喫した。連続五輪が4回で途切れ、20年ぶりに五輪を自宅で過ごした。テレビ中継も見なかったが、純太郎君に「なぜオリンピックを見ないの」無邪気に聞かれたという。「日本のヒーローになれなくても、純のヒーローになりたい」。来年の中学受験のために塾の夏合宿に出かけている息子に、最高のアテネみやげができた。

 自宅で留守を守る妻の敦子さん(45)からは「楽しんできて。終われば、またただのオジサンに戻るのだから」と送り出された。山本にはさんさんと輝くゴールドより、渋く光るシルバーが似合う。「息子に恥じないプレーを、とそれだけだった。うーん、次は20年後に金!」。オヤジの競技人生はまだ終わりそうにない。

※記録と表記は当時のもの