東京五輪が韓国開催? 混迷を続ける20年五輪・パラリンピックのボート、カヌー・スプリント会場に韓国中部・忠州(チュンジュ)のボート場が浮上したことが18日、分かった。国際オリンピック委員会(IOC)が海の森水上競技場の代替案として検討していると、大会関係者が明かした。東京都の小池百合子知事(64)はこの日、IOCのトーマス・バッハ会長(62)と会談。コスト削減と復興五輪の観点から宮城・長沼ボート場へと変更する小池案をけん制する仰天プランが、タイミングよく飛びだした。

 あまりに唐突な韓国開催プランだ。整備費高騰が問題となっている海の森水上競技場、復興五輪の象徴ともなる宮城・登米市の長沼ボート場、さらに選手の支持がある埼玉・彩湖まで加わって混迷の度合いを増す会場問題。そこに、いきなり14年仁川アジア大会の開催地でもある忠州ボート場の名が挙がったのだ。

 海の森が建設されない場合の代替開催地として検討をしているのはIOC。過去にも海の森の高額な整備費を憂慮したIOCが、組織委員会に韓国開催を示したことがあるという。バッハ会長は「うわさについてのコメントはしない」と話したが、混迷を続ける会場問題に業を煮やしたIOC内に「それなら韓国で」という声が出た可能性は高い。

 忠州のボート場は韓国の玄関口である仁川国際空港から車で2時間半。国際規格の2000メートルコース8レーンを備えるアジア屈指の競技場で、国際大会の開催経験もある。見直しで候補となる国内3会場のマイナス点は、すべて解消できる。

 過去にも56年メルボルン五輪で馬の検疫問題から馬術だけをストックホルムで行ったことはある。IOCは14年12月に承認した中長期改革「アジェンダ2020」で、コスト削減などを理由に一部競技を開催国外で行うことを認めている。とはいえ、この日バッハ会長が松野文科相との会談で「世界の若者が1カ所に集うことが五輪精神」と強調したように、分散開催はあくまで特例。韓国開催プランは、IOCによる東京五輪側へのけん制のようだ。

 IOCは、過去にも準備が遅れていた18年平昌(ピョンチャン)冬季五輪のそり競技を、長野で実施するように提案した。この「脅し」に韓国内は猛反発。同大会の組織委は「すべて韓国で行う」と異例の発表をした。今回も「いいかげんにしてくれ」というIOC側の思いが見え隠れする。

 突然の韓国開催案に、日本は大騒ぎ。松野文科相はこの日の閣議後に「(事実を)承知していないが、一般論としては日本国内の開催が前提」と話した。分散開催となれば、選手への影響も少なくない。カヌーはスプリントとスラロームで国をまたぐことになる。落としどころの見えない会場問題。東京五輪開幕まで、もう4年を切っている。

 ◆中長期改革「五輪アジェンダ2020」 アジェンダとは計画、予定表のこと。13年9月に就任したバッハ会長が「五輪の将来の設計図」と位置付けたもので、開催都市の利益を重視し、五輪の魅力や創造性を高めることを目的としている。IOCは14部門の作業部会を設置して意見を集約し、約1年の議論を重ね改革案をまとめ、14年12月の臨時総会で、開催都市の追加種目提案権や、例外的に一部競技を国外で実施する分散開催などを承認した。

 ◆過去の五輪分散開催 2カ国で行われたのは56年メルボルン大会だけ。当時のオーストラリアは動物検疫が厳しく、馬を持ち込むのに6カ月かかった。このため馬術競技だけをメルボルン大会の6カ月前にスウェーデンのストックホルムで開催した。08年北京大会も実は分散開催。この時も馬術競技だけが香港で行われた。香港は97年に英国の植民地から中国に復帰しているが、五輪的には「他国」扱い。香港には独自の五輪委員会があり、香港代表として出場しているからだ。