アメリカンフットボールの定期戦で、悪質な反則行為を行い関学大の選手を負傷させた日大の宮川泰介選手(20)が22日、都内で会見したことを受け、元東京地検検事の若狭勝弁護士が今後の展開について解説した。宮川選手が述べた内容が事実なら、日大アメフト部の井上奨コーチ(30)の刑事責任は免れないとの見方を示した。

 井上コーチの「相手のQBがケガをして秋の試合に出られなかったらこっちの得だろう」との発言に、若狭氏は「明確に『ケガ』を示しており、刑事責任は免れないだろう。共謀共同正犯なのは明白」と断じた。

 一方、内田正人前監督(62)については「弁解されると刑事責任には問われない可能性もある」と分析。宮川選手の陳述書によれば、内田氏が直接話した言葉は、宮川選手が「相手のQBをつぶしに行くんで(試合のメンバーに)使ってください」と直談判した際、「やらなきゃ意味ないよ」と返答した部分のみ。「『ケガを負わせろという意味で言ってはいなかった』などと弁解されたら、傷害の指示を立証するのは難しい」と説明した。

 19日の会見で内田氏は「全責任を取る」と発言しているが、これも「監督としての道義的な責任という意味合い」と弁解した場合、「ケガを負わせた指示」に対する責任にはかからない可能性がある。

 ただ、宮川選手が絶対に逆らえない強権的な環境のもと、監督、コーチは「試合に出さない」「日本代表には行くな」とプレッシャーをかけた上で、関学大QBを「つぶせ」と指示し、何度も念押ししていることから「選手の心理を支配している状況」と指摘。

 その状況下で絶対的権力者である内田氏の考えが指示系統を通じて、意見できない末端の選手に伝わり、反則を実行した。「カルト教団や反社会勢力の末端構成員が、上層部の指示で犯罪を実行してしまう組織犯罪によくあるパターンと同じで悪質だ」と断じた。

 示談が成立しない場合、宮川選手は傷害罪に問われる可能性は高いが「指示に逆らう余地が全くなく、法律的に『期待可能性』(適法な行為を選択できる可能性)がないと判断されれば、罪に問われない可能性もある」という。いずれにせよ、内田氏から直接指示を受けた井上コーチの証言が重要で、捜査官に何を言うかで関係者の罪状も変わってくる。

 罪には問われないが、日大の対応にも「調査がどうしても後ろ向き。企業心理と同じで問題を小さく収めようとし、あしき対応になった」と苦言を呈した。【三須一紀】

 ◆共謀共同正犯 犯罪を共謀して計画、命令などをした場合、実行に加わっていなくても正犯として罪に問われる。現場にいなかった首謀者などで、実行犯より重い刑罰となることも。